事例

ワクチンを守れ!クラウドを活用した IoT アプリ開発

2021 年 6 月以降、新型コロナワクチンの職域接種が全国で進められるなか、岐阜県下で最大の民間病院 松波総合病院では解凍後の新型コロナウイルスワクチンの品質保持のため、 IoT を活用して複数の冷蔵庫の管理が行われている。

職域接種においては、解凍後のワクチンを一般的な冷蔵庫で保管するケースが多いという。
厚生労働省の指示によると、ワクチンは摂氏 2℃〜 8℃ 以内で保存しなければならないが、庫内の温度は扉を開けた際に上昇するほか、メーカーによって冷却装置の稼働安定性が一定ではない。そのため、同院では冷蔵庫内の温度を約 10 分ごとに計測し、しきい値として設定した上限・下限値に達すると、FileMaker Cloud から Claris Connect を経由して 管理者にメールや SMS で警告が自動送信される仕組みとなっている。

LTE でも WiFi でもない LPWA とは?

今回利用されているのは、ソラコム社が提供している温度・湿度管理センサーと、省電力かつ長距離での無線通信が可能な LPWA(Low Power Wide Area-network) というサービスを日本国内で提供する京セラコミュニケーションシステム株式会社の Sigfox (本社:フランス)だ。そして、FileMaker Cloud と Claris Connect がプラットフォームとして採用されている。

LPWA の特徴は、通信速度は携帯ネットワーク(3GやLTE)や Wi-Fi などと比べると低速で、送信容量に制限がある一方、電池 1 つで数年単位の稼働も可能なほど省電力であること。Sigfox は、低価格・低消費電力・長距離伝送の特長があるグローバル IoT ネットワークであり、日本国内では利用可能エリアの人口カバー率が 95% 以上となっている*。この Sigfox センサーは 1 回最大 12 バイト(半角英数 12 文字)の送信をおこなうもので、3 回の再送信を周波数を変えておこなう仕組みとなっており、複数の基地局で受信するため、通信の安定性、耐干渉、耐障害性を高めている。

*京セラコミュニケーションシステム株式会社 Web サイトより

ワクチンを保管する冷蔵庫と、温度変化が一目でわかる FileMaker のカスタム App

きっかけは岐阜の猛暑にあり

実は、このワクチンを守るための IoT の取り組みの発端は、3 年前にさかのぼる。2018 年 8 月、同じ岐阜県内の病院においてエアコンの故障による重大事故が起きたのだ。新しい設備が揃った松波総合病院とは空調の管理方法も異なるが、県内で起きたこの事故をきっかけに、松波総合病院でも施設内の温度管理には二重の予防線を張り、細心の注意を払う取り組みが始まった。Claris 社 に相談し、PoC (概念実証)を開始、温湿度センサーを館内の施設に配置し、センサーから受け取るデータを FileMaker Cloud に蓄積してデータの統計分析を行なった。
一般的に IoT センサーは、センサー単位のデータを一定期間蓄積し、センサー単位で表示したり可視化する簡易的な機能はあるが、複数のセンサーを建物見取り図や、管理者区分、用途別などにして多角分析した状態で可視化するのには適していない。さらに、電波が届かないなど IoT 機器が一定期間通信されていない場合の仕組みは標準提供されていない。そのため、松波総合病院では、IoT デバイス単位でセンサーから送信されるデータを監視し、IoT センサーを FileMaker レイアウト上に配置して可視化、さらにしきい値も監視して警告する仕組みを FileMaker プラットフォーム上に構築していた。

松波総合病院では、これまで銀行、組合などに対して、医師・看護師・事務員をチームで派遣して、ワクチンの職域接種を進めてきたが、ワクチンはそれぞれの組織の冷蔵庫で保管されるため、WiFi 環境に左右されず、低コストで複数の冷蔵庫を監視するニーズがあった。そのため、職域接種で使用される冷蔵庫に温湿度センサーを設置して遠隔監視し、職域接種の各担当者に警告等のメッセージを通知することでワクチンを守っているという。

最新のテクノロジーを採用

松波総合病院 で Claris FileMaker の開発を担当する深澤氏は、新しいテクノロジーを積極的に採用している。2021 年 7 月にリリースされた Claris Connect に連携するSMSサービス 株式会社メディア 4u の “メディア SMS” を早速導入。iPhone への SMS 通知により、より迅速に異常を知らせることを可能にした。

メディア SMS を利用した通知。冷蔵庫の温度しきい値への警告のほか、センサーのバッテリー警告も通知される。

【編集後記】
職域接種や地方自治体では、ワクチン保存用の冷蔵庫に電源が入っておらず、管理温度を超過して新型コロナウイルスワクチンを保存し、ワクチンを廃棄するニュースが相次いでいる。そんななか、松波総合病院で院内の IT 部門スタッフが既存のシステムを応用して低コストで課題を解決できた裏には、新しい技術をいち早く採用する組織の積極的な姿勢がある。
日本の医療機関の多くは従来の仕組みを変えることに対して保守的な考え方をする傾向にあるが、松波総合病院では松波和寿病院長の支援のもと、新技術への取り組みを積極的に行っており、iPad 上から電子カルテを閲覧できるようにしたり、iPhone を使って 褥瘡(じょくそう)などの写真を FileMaker Go を経由して取り込んだりと積極的な IT 投資を行っている。今回のワクチン接種においての取り組みも、これらの経験を踏まえた ”実行力” + “人財” の結果といえるのではないだろうか?

【オンデマンド Web セミナー】
この事例について詳しくご紹介した Web セミナー「ワクチンを守れ!Claris FileMaker Cloud と Claris Connect で作る IoT アプリケーション 開発事例」の録画をこちらからご覧いただけます。