プログラミング経験がなかった高校生が、観光協会から声がかかるほどのアプリ開発を実現。授業の一環としてアプリ開発を行うことでどのような学びが得られるのか、教育現場における導入の意義について北海道斜里高等学校の生徒と先生にお話をお聞きしました。また、北海道斜里高等学校長の赤津先生から、アプリ開発を通して見えた生徒の成長についてもコメントいただきました。
札幌国際大との接点から生まれた、アプリ開発キャンパスプログラムとの出会い
Q .授業でアプリ開発を始めたきっかけは何でしょうか?
橋口先生(斜里高校教員):きっかけは 2017 年に札幌国際大学でのアプリ開発の研修・講座に参加したことです。
有賀啓之氏(FileMaker 講師):私が、当時データべースの講義を担当していた札幌国際大学と北海道斜里高等学校が、地域・産学連携協定の関係にあったご縁で、斜里高校でもキャンパスプログラムの導入をご決断いただき、その授業の支援をさせていただくことになりました。
橋口先生: この研修をきっかけにして、教育機関向けに無償でライセンスの提供を受けることのできる、FileMaker キャンパスプログラムを正式に申込みすることになりました。その後早速 2017 年 8 月に有賀さんと札幌国際大学の学生たちからレクチャーを受けて、アプリを作る講座を設けました。するとやっぱり興味のある子たちが出てきたので、放課後リモートで有賀さんや会社のスタッフの方と繋いでアプリ制作を続けていきました。 その後もやりとりを重ね、2020 年からは、授業に本格的にアプリ開発を取り入れたことで、導入 1 年目にしてアプリ開発のコンテストである、FileMaker 選手権 2020 で受賞するまでになり、後輩たちのモチベーションにもつながっています。 FileMaker キャンパスプロラムでは、Claris 認定資格を取得したトレーニング経験も豊かなパートナーの方が教えてくれるので、私自身も子どもたちと一緒に学ばせていただいています。
プログラムの知識がなくともアプリで地域貢献ができる
Q .高校生の視点で感じる FileMaker の魅力やアプリ開発の感想を教えて下さい
高校生 A :自分でアプリを作るのは初めての経験でしたが、知識がなくてもアプリを作ることができますし、色々な機能もあって面白いです。私たちが作っているのは観光地や観光スポットのアプリなのですが、情報量が多くて、詳しく丁寧にまとめるのはとても大変です。ただその分これから形にしていくのが楽しみでもあります。
高校生 B :長い間斜里に住んでいても「知らないことってたくさんあったな」と、アプリ制作をしながら改めて感じました。でもそれが楽しいですね。
高校生 C :最初は難しいと思ったのですが、説明を聞いて使っていくうちにすぐに慣れることができました。
高校生 B :先輩たちの活動を校内や SNS で見たのですが、苦しみながらも楽しそうにしている姿を見て自分もやってみたいと思うようになりました。「高校生でこんなこと中々できないよな」と思い、この授業を選択しました。
高校生 A :「地域に貢献できること」ってなかなか普通に暮らしていてもないと思うので、貴重な経験だと思います。
橋口先生:いま街の人からも注目をされていて、特に 昨年の FileMaker 選手権 2020 で銀賞をとった『おなかすいたの?』なんかは、北海道の新聞などでも取り上げてもらったこともあり、ぜひ観光協会で使わせてもらえないかと。このような活動をしている生徒達の姿を見て、我が校の校長である赤津からも、「自分たちの足で町内を調べ、地元の方々の話を直接伺い、得た知識を知らない人にわかりやすく紹介するといった一連の活動の成果は、まず何よりも自分たちが生まれ育った場所について深く知ることができたということに他なりません。今年度の3年次生がさらにレベルアップを図り、それがまた下級生たちへと受け継がれていくと、学校全体で地域のために何かしたいとの気運が高まり、その結果として地域からも愛される学校になっていくことを願っています。」と最大級の評価をもらっています。(編集者注:赤津校長からのコメント全文は、本ブログの最後にご紹介しています。)
こういった観点からも地域理解、郷土理解、郷土愛を育む上でもいいツールだと私は思います。
自分の作ったアプリが自分の iPhone で動くという体験をぜひ子どもたちに
Q .教育に携わっている方へ向けて伝えたいことはありますか?
有賀氏:コンピュータ教育のなかで、自分自身が主役になって、「何かを作る。身の回りの問題を解決する。」ためのツールとしては、 FileMaker の利用は非常に効果的だと思います。 Windows でも Mac でも、 iPhone でも iPad でも、場合によっては Android でも使える、ということは様々な機種が混在する教育現場に接してきた身としては特にそう思います。プログラミングの知識を必ずしも必要としない使い方からでもいいので、ぜひ先生方には「お試しでいいから始めてみませんか?」と伝えたいです。
橋口先生:本当にそう思います。自分の iPhone で自分の作ったアプリが起動するあの感覚を、ぜひ子どもたちに体験させてあげてほしいですね。あの感動や達成感、今の子達ってそういう成果が目に見えた形で出てくることがなかなかないと思うんです。
有賀氏:過去にキャンパスプログラムを実施した際に、ある参加者の方がこんな感想を話してくれました。「アプリケーションは買うものではなくて、作れるものなんだということがわかった瞬間でした。」と。この言葉は私がキャンパスプログラムの魅力を伝える上で最も重要なテーマのひとつとなりました。個人でアプリを作れる時代がもう始まっています。
【編集後記】
プログラミングとは縁のないところからスタートした斜里高校のアプリ開発。しかし、本格的に FileMaker キャンパスプログラムを利用する授業を開始した昨年の FileMaker選手権 2020 ですぐに銀賞を獲得した高校生のポテンシャルには大変驚かされました。それも「自分で作ったアプリが、自分の iPhone で動く感覚をぜひ味わって欲しい。」という熱い気持ちを持った橋口先生が、講師の有賀さん達と協力し、「地域に貢献できる貴重な経験をしたい」という生徒たちの思いが形になったからだと思います。自分たちの欲しいアプリが自分たちで作れる経験は何事にも代えがたいということを感じさせられたインタビューでした。
最後に、学校全体で生徒のアプリ開発を通した成長を支援し、生徒の郷土愛を育むとともに、地域から愛される学校づくりをされている北海道斜里高等学校長 赤津博久先生からお寄せいただいたコメントをご紹介します。
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「FileMaker選手権」への取組を通して見えた生徒の成長
北海道斜里高等学校長 赤津 博久
創立80周年を迎え、2004 年度に総合学科へと学科転換した本校には、「社会の変化に対応し、自らの能力で生き抜く力を育成する」という学校教育目標があります。
この目標の実現を図るために本校教職員は
- 様々な体験活動を通して自分という人間について理解させる
- 探究活動を通して思考力、コミュニケーション能力、プレゼンテーション能力を育成する
- 単に進学、就職先を選択するのではなく、将来どう生きるかを考えさせる
の 3 点を意識して普段からの授業を展開しています。
近年は特に「世界自然遺産知床」の玄関口にある町の学校として『観光教育』に力を入れ、その中で、学校設定科目の「観光ビジネス」を履修している 3 年次生が昨年度、有賀さんのご指導の下、「FileMaker」を使用したアプリ開発に取り組み、「FileMaker選手権」では銀賞、並びに審査員特別賞をいただきました。
本校生はほぼ全員が地元斜里町の出身ではありますが、知床が世界自然遺産に登録されていることは知っていても、いざ紹介しようとすると、実際には行ったこともなく実は何も知らないということに気づかされます。知床の自然に限らず、産業や飲食店などもっと身近な面についても同様です。これでは他の人にプレゼンテーションするどころか、郷土に愛着を持ち将来はふるさとのために役立ちたいという気持ちもなかなか育ちません。
今回、自分たちの足で町内を調べ、地元の方々の話を直接伺い、得た知識を知らない人にわかりやすく紹介するといった一連の活動の成果は、まず何よりも自分たちが生まれ育った場所について深く知ることができたということに他なりません。昨年度の3年次生は本校卒業後、進学・就職それぞれの進路に進みましたが、機会あれば自分のふるさとについて自信を持って説明し、将来は町の関係人口を増やすことにも一役担ってくれると期待しています。
また、その姿を見ていた今年度の3年次生がさらにレベルアップを図り、それがまた下級生たちへと受け継がれていくと、学校全体で地域のために何かしたいとの気運が高まり、その結果として地域からも愛される学校になっていくことを願っています。
結びになりましたが、スタート時より継続してご指導いただいた有賀代表取締役をはじめ株式会社DBPowersの皆様には心よりお礼申し上げますとともに、関係各位の今後とも変わらぬご指導・ご協力をお願いいたします。