サポート切れのデータベースソフトを使い続けてきたものの――
千葉県千葉市にある有限会社 西川塗装店は、塗装工事から防水工事、看板制作まで、建物にかかわる幅広い事業を展開している。特に主力の塗装事業では、住宅・マンションの内外装のほか、橋梁などの土木構造物やプラントの塗装など、多様なニーズに対応できる高い技術力で、官公庁をはじめとするさまざまな顧客から高い信頼を得ている。
そんな同社では、2021 年 5 月から段階的に Claris FileMaker の導入を始めた。2022 年 12 月に完成したカスタム App は、各現場の取引内容を記録する「工事台帳」の機能や、工事材料・経費などの情報を一元管理する機能を有しており、施工や工程管理を行う工事部はもちろん、総務・経理担当者も利用するアプリとなっている。
実は FileMaker 導入前、同社では別のデータベースソフトで同様の仕組みを構築していた。しかし、このソフトウエアは当時すでにサポートが打ち切られており、動作が不安定で業務に支障をきたしていた。そこで西川塗装店 代表取締役の西川 昇 氏は、FileMaker を活用してシステムを構築し直すことを決断する。西川氏は、当時を次のように振り返る。
「かつて無料評価版を試したことがあったので、 FileMaker なら既存のものと同様の仕組みを構築できることはわかっていました。当時理解していたのはそれだけでしたが、結果としてこの選択は正解だったと考えています」
以前のシステムは西川氏自身が構築していたため、FileMaker でも同様のものが構築できることはすぐにわかったそうだ。とはいえ、多忙ななかシステムを 1 から組むことは困難だと判断。そこで Claris の Web サイトで Claris パートナーを検索したところ、同じ千葉県に拠点を構える株式会社アイ・アンド・シーの存在を知り、カスタム App の構築を依頼することにしたという。
工事管理のあらゆる業務を最適化するカスタム App の機能とは?
今回構築したカスタム App は次のような流れで利用される。
まず、営業担当者が案件を受けるとカスタム App に施工場所や見積もり金額などを登録。そして、工事を正式に受注すると同じくカスタム App 内の「工事予算台帳」に受注日や受注先、工事番号、工事名、工事場所、予算などを入力する。すると「工事台帳」に新たなデータが作成され、工事の進捗と共に出来高などの情報を入力、管理できるというわけだ。
なお、社外への業務委託や材料の仕入の際の発注書も FileMaker で作成するが、その内容は「工事台帳メニュー」の 1 つである「実行台帳」に反映される。また、工事担当者が入力する日報から算出した工数も「実行台帳」に反映されるので、各工事の原価や工数を「実行台帳」を見れば一目で把握できるようになっているのだ。工事が終了すると、工数と費用を予実で比較して、スコアを自動で算出する評価機能を備えているのも特筆すべき点である。
西川氏は、FileMaker 導入の効果について「基本的な機能は以前のシステムと同じながら、使い勝手は大幅に向上しました。当然、動作の安定性は全く違いますし、データの入力もしやすくなりました。また、評価の部分は、以前は表計算ソフトで行っていましたが、それが自動化されたことも大きな成果だと考えています」と胸を張る。
経理を担当する、同社取締役の西川 康 氏は、自らの業務の負担軽減に寄与していると話す。
「会計ソフトは、以前から他社製のパッケージソフトを利用していますが、以前は材料費など、経費の情報をデータベースソフトと会計ソフトの両方に入力しなければなりませんでした。その点、現在は、会計に関係する情報を FileMaker から CSV ファイルで出力し、会計ソフトにインポートさせています。結果、経理側でのデータ入力が不要になり、業務負担は大幅に軽減しています」
また、社内で管理している資材に QR コードをつけ、それを iPad で読み込むことで入出庫管理の最適化を図っている。これも業務負担の軽減に貢献している一方、現場の業務改善にも寄与しているとのこと。「工事台帳」内には、各工事に関連する書類の登録ができるようになっているが、この情報を参照すれば、誰でも簡単に共有フォルダ内の関連書類を把握できるようになる。この仕組みにより、現場では書類管理の煩雑さから解放されたが、その効果が絶大なのは想像に難くない。
さらに、FileMaker の導入は、デジタル活用に対する社内意識を変えるきっかけになっているようだ。西川塗装店では、ローコード開発が可能な FileMaker の特長を生かし、現場からの要望に迅速に応えるシーンは珍しくない。その様を目の当たりにして FileMaker に興味を持ち、業務に役立つカスタム App が作成できないか?と、自ら学び始めた社員もいるというのだ。
集約した評価情報を活用し、持続的成長へ
「ローコード開発が可能なので、多様なメンバーが開発に携われる点はメリットとして大きいと思います。今回のプロジェクトは、既存システムが備える機能をすべて網羅しながら、評価機能など、新たな機能も追加しなければならず、難易度が高いものでしたが、迅速な対応が実現できたのは、FileMaker だったからこそと考えています」
今回のプロジェクトでカスタム App の開発を担当したアイ・アンド・シーの板倉 千夏 氏は、開発の現場における FileMaker の強みについてこのように説明。また西川塗装店の担当者、鈴木 直人 氏も「 FileMaker によって簡単にシステムを開発できる環境が整ったのは間違いありません。カスタマイズを行う上でも、社長や現場からの高い要求に迅速に応えられるのは心強いです」と強調する。
西川塗装店では、FileMaker で集約可能になったデータをさらなる成長のために活用していく考えだという。
「今回構築したシステムで、工事や取引業者の評価情報を理想的な形で集約できるようになりました。今後はこの情報を活用して自社の課題を明らかにし、それを改善する取り組みを進めていく考えです。いずれにせよ、将来の企業活動につなげていくためには、現在と過去の情報をきちんと残せる環境を整備することは必要不可欠。それが実現できたことは、FileMaker を導入した大きな価値の 1 つですね」(西川 昇 氏)
同社は常に先進的な姿勢を保つことで成長を続けてきたという。積極的なデジタル活用もそのような姿勢の表れだろう。FileMaker が今後の成長の礎となることを期待したい。
【編集後記】
「“記憶”は都合よく書き換えられる可能性がある。だからこそ“記憶”でなく“記録”で過去を残すことが重要――」これはインタビュー中に西川昇氏が発した言葉である。その言葉を徹底するためにも、業務記録のデジタル化は欠かせない。デジタル活用について明確なヴィジョンを持ち、迅速な意思決定を実践してきた西川氏の姿勢からは、企業を発展させるには経営者のデジタルに対する深い理解が必要であることを強く感じさせた。現代社会において、業務のデジタル化は企業規模に関係なく取り組まざるを得ない課題だが、経営者はそれに真剣に向き合うべきであることを改めて意識させられるインタビューとなった。
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