目次
- 働く人が生き生きと輝き、安心して働き続けられる。熊本県の「ブライト企業」
- 環境を変え、社員の意識を変える。そのために必要なこととは?
- 「あれ?なんか簡単にできそうだぞ」FileMaker で年間 1600 時間を削減
- 蓄積されたデータを分析し共有することで考え方に余裕が出る
- 名刺作成アプリも Claris FileMaker で
- 資格管理も Claris FileMaker で
- ドローン 3D レーザースキャナを導入。新規投資ができるのも IT 化のおかげ
1. 働く人が生き生きと輝き、安心して働き続けられる。熊本県の「ブライト企業」
熊本市を拠点とし、阿蘇市にも営業所を構える 株式会社 十八測量設計 は、道路、河川、橋梁などの企画・調査・測量・設計施工管理を行う建設コンサルタント企業。これまで熊本天草幹線道路や熊本港、菊池川、発電所などのプロジェクトにかかわってきた。熊本地震や豪雨などの災害復旧作業にも積極的に取り組んでおり、地元熊本を土木の面から支えている地元密着の企業だ。
建設・土木業界は古くから「3K (キツイ・キタナイ・キケン)」というイメージがあり、そのため新しい担い手の確保が難しく、慢性的な人材不足に悩まされてきた。さらに最近では人材不足のために「1K (休暇が取れない)」が加わり「4K」とも言われ、深刻な人材難に陥っている地方の建設・土木会社も多い。
そんななか株式会社十八測量設計は、近年の 3K ならぬ 4K のイメージを払拭すべく、生産性を向上させ、働きやすい職場づくりに取り組んでいる。例えば、子育て・世代育成支援を積極的に行った結果、女性はもちろん男性の育児休業取得も促進され、社員は積極的に子どもの行事に参加するようになったという。また、育児休業の取得率は実に 100% を達成している。
2022 年 (令和 4 年) には、厚生労働大臣から子育てサポート企業に付与される「くるみん」認定を受けた。これらの実績は経営者の覚悟だけで達成できるものではなく、社員の意識の変化によるところも大きい。同社では社員一人ひとりの意識が変化し、全員が情報共有の重要性を再認識するようになった。また、育児支援だけでなく、家族の病気の治療と仕事の両立支援の取り組みへの理解も深まった。その裏には、これまでのやり方やシステムを抜本的に変える必要があった。以下ではその取り組みの 1 つ、デジタル化の取り組みについて紹介する。
2. 環境を変え、社員の意識を変える。そのために必要なこととは?
建設・土木業界の 3K ならぬ 4K を改善するために十八測量設計が取り組んだのは、業務の短縮化・効率化だった。同社で営業部 部長を務める長野 三士氏は、
「私たちの仕事の 8 割以上は行政からのインフラ整備にかかわる仕事ですので、入札案件に関する書類の管理が重要です。以前は、Access と Excel とを使っていました。受注した分のデータを管理していたのですが、入力にとにかく時間がかかる。入力してもその後は検索に使うだけで、集計など多くは手作業でした」と昔を振り返る。
「資格を持っている業者に対して、行政から指名競争入札の通知が出ます。調書には行政側 (発注者側) から出る予定価格が記載されていて、その明細内容を精査し、当社ではいくらで受注できるのかを見積もって入札し、無事落札されると開札調書に基づいてデータを作成します。業務台帳と引継書を作成する際は、とにかく管理する情報が多いのでとても時間のかかる作業でした。どこの会社もそれでやっていると言われると、そういうものだと思ってしまい、長年このような非効率的な作業は変わらない状態でした」(長野氏)
そんなとき、社員の一人が熊本市で開催された FileMaker のユーザ勉強会に参加する。その話を聞き、業務改善の可能性を感じた長野氏は、熊本市で Claris パートナーに認定されている 株式会社リアルワークス の代表 戸田 博公氏に FileMaker について話を聞くことにした。
未知なる FileMaker への挑戦という、知の探索が始まった瞬間だった。
3. 「あれ?なんか簡単にできそうだぞ」FileMaker で年間 1600 時間を削減
「勉強会から戻ってきた社員が『FileMaker なら簡単にできそうだぞ』と言ってきて、そこから 4 か月。リアルワークス の戸田さんに話を聞いてもらって、現状のやり方を FileMaker で変えてみようと取り組みはじめました。結果、出来上がってきた FileMaker のおかげで、Access での作業はなくなりました。
当社では、1 件の指名競争入札に対して、入札情報の入力作業、印刷、確認して、見積もりを作成して、入札完了するのに事務作業だけで 3 時間以上かかっていました。ところが、いまは 3 分の 1 以下です。ほとんど時間がかからないようになりました。実際、年間 500 件近い入札案件がありますが、以前はそれがもう途方もない作業でした」と長野氏は当時を顧みる。
OECD (経済協力開発機構) の 2021 年の統計データによると、日本の労働者 1 名の年間平均労働時間は 1607 時間。同社が FileMaker の導入によって削減した指名入札にかかわる事務作業の時間は 1600 時間以上。つまり、1 人分の年間事務作業を FileMaker プラットフォームが担っていることになる。
入札管理アプリの構築を担当した 株式会社リアルワークス の戸田氏は、
「2014 年の 4 月にお問い合わせいただいて、夏から業務台帳のアプリ開発に取り掛かりました。最終的に 10 月末に Access からデータ移行しています。過去 20 年分のデータを移行してから、開札台帳の取り込み、引継書など、機能を追加していきました。2014 年 12 月にはご要望いただいた追加機能の開発も終わっていましたね。
これだけのスピードで開発できたのは、営業だけでなく測量の現場も理解している長野さんに長年の知見があり、そして何をしたら業務を効率化できるのかを理解されていたからだと思います。そして、アプリを開発しては修正する、を繰り返すアジャイル開発ができる FileMaker だったからこそだと思います」と アジャイル開発と FileMaker の親和性について説明する。
4. 蓄積されたデータを分析し共有することで考え方に余裕が出る
十八測量設計にとって、入札はたくさんすればよいというものでもない。多く受注し過ぎれば、社員の負担が増える。かといって、受注件数や受注額が足りなければ、社員に給与が払えない。公共事業が売上の 8 割を占める同社にとって、入札予定価格に対して、入札金額をどう入れていくかを判断するためのデータ分析は必須だ。測量部門・技術部門・営業部門とキャリアを積み重ねてきた長野氏にとって、さまざまな角度からのデータ分析は重要な武器になる。FileMaker によって多様なデータ分析が可能になったことは、事務時間削減以上の効果を生み出している。
そして 2024 年現在、リアルワークスとともに原価管理アプリも構築中だという。
5. 名刺作成アプリも Claris FileMaker で
FileMaker は一旦ライセンス購入していれば、どれだけアプリを増やしてもライセンス費用の追加は発生しない。開発をサポートしてくれるリアルワークスへのアプリ追加にかかわる構築費用も、ローコード開発であるため、他のシステムに比較して低額である。そう言って長野氏が見せてくれたのは、自分で作ったという名刺のデザインだ。雛形には、『くるみん』認定のロゴと熊本県 PR マスコット「くまモン」が入っており、年初には 「謹賀新年」スペシャルバージョンの名刺で挨拶するという。この名刺作成アプリも FileMaker で作った。
資格取得者にとって、新しい資格を名刺に入れることは誇りの一つ。資格を取得すると、早く新しい名刺を手にしたい気持ちになる。必要な量の名刺を必要な時に印刷でき、柔軟にデザイン変更もできるので、無駄がなくなりコスト削減にもつながっているという。
6. 資格管理も Claris FileMaker で
同社では FileMaker のシステムを稼働したあと、社員の資格データベースも作成した。
「公共事業では毎年指名願いというものがあり、現在の社員がどの資格を持っているかを提出します。資格の中には、永続的な資格だけではなく更新が必要なものも含まれます。例えば、RCCM (シビルコンサルティングマネージャー) は、土木工事関連の専門技術者の資格で、4 年更新です。RCCM という資格も、道路部門や河川部門で異なりますから、誰が RCCM のどの分野の資格を持っていて対応できるのかも瞬時に検索できるようになりました」 (長野氏)
ドラッグ&ドロップで簡単に画像がデータベースに保存できるのも、FileMaker が使いやすいと感じることの 1 つだ。PDF などのドキュメントを保存したり閲覧したりできるのは本当に便利だ、と長野氏は言う。
7. ドローン 3D レーザースキャナを導入。新規投資ができるのも IT 化のおかげ
今年 2024 年で稼働から 10 年目を迎える株式会社十八測量設計の FileMaker アプリは、初期 6 か月間に行った開発をベースにバージョンアップを繰り返しながら拡大し、現在も安定稼働している。同社は、積極的に ICT(情報通信技術) の改善に取り組み、その成果を次のステップに投資することで若者に選ばれる魅力的な職場づくりを目指している。
同社の測量現場は、山間部や河川など人が踏み入らない危険な現場も多い。計測対象の地形等を短時間で大容量の 3 次元点群データとして取得することが可能になるドローンを使った 3D レーザースキャナの導入は、3K 改革への取り組みの 1 つでもあり、災害時の被災地状況把握などにも有効だ。このような投資ができるのも、業務を ICT で効率化できているおかげだ、と長野氏。
「当社は、1968 年 (昭和 43 年) の創業から少しずつ社員を増やしており、最近では新卒採用も続けています。道路や橋など、長い年月にわたって地図に残るモノにかかわる仕事をし続けていますから、社員が仕事と生活を両立し、安心して長く働くことができるようにしなければなりません。そのために、これからも業務効率化と ICT への投資は継続していきたいと思います。
熊本に リアルワークス 戸田さんというパートナーがいるので 10 年間、安心して FileMaker を使い続けてこられました。これからも頼りにしています」と長野氏は笑顔で締めくくった。