目次
- FileMaker でデータ管理して 25 年、信頼される部品サプライヤー
- 新機能の追加に際し、内製から外注へ
- 製品画面に情報を集約し共有、マニュアルレスでも容易に製造工程を把握
- リアルタイムに状況把握ができ、迅速な顧客対応を実現
- FileMaker と iPad で収集したビッグデータは将来の資産に
1. FileMaker でデータ管理して 25 年、信頼される部品サプライヤー
太田工作株式会社は静岡県藤枝市にあり、工作機械・洗浄機の加工部品および板金部品を製造している。1973 年の創業で、現在代表取締役の太田 暢裕氏は 2 代目だ。社員 17 名と小規模ながら、「高品質」「低コスト」「短納期」のモノづくりで顧客の信頼を獲得している。それを支えているのが、図面や工程、材料など製造に欠かせないさまざまな情報を格納するデータベースである。
他企業で会社員をしていた太田氏が家業の太田工作に戻った 25 年前、事務所は FAX の山で覆われ、受注情報の整理にも苦労していた。過去に受注した製品の情報を参照しようにも、大量のファイルの中から探す必要があるなど、フローに無駄が多かった。そこで太田氏は Claris FileMaker を使ってそれらの情報をデータベース化し、整理しようと思い立つ。太田氏は、「会社員時代、FileMaker 2.1 を業務に利用していました。そこで FileMaker を使えばやりたいことができるのではないかと取り組み始めました」と語る。
太田氏が最初に取り組んだのは、図面管理である。しかし当時はコンピュータの性能が低く、FileMaker でも画像など大容量データの処理に時間がかかっていた。そこで FileMaker では文字データのみを扱い、画像データは別途 Linux サーバーに格納するなど、さまざまに工夫を凝らしながらより使いやすいシステムへと育てていった。
太田氏は自ら開発した経験から、FileMaker を次のように評価している。「普通のデータベースは数字の桁数が変わる(定義が変わる)と一から作り直す必要がありますが、FileMaker はすでにあるフィールドの定義を後から簡単に変えられるので、使いやすい。使い始めた当時と違って現在は何メガものデータを容易にハンドリングできるようになり、業務に役立っています」
2. 新機能の追加に際し、内製から外注へ
太田氏が開発したシステムは、受発注管理や見積もり作成など、機能を充実させながら使い続けてきたが、2015 年、iPad と QR コードを使って現場の情報をリアルタイムに把握したいと検討した際、内製では難しいと判断。静岡県浜松市にある 1993 年創業のソフトウェア開発会社、ネビュラ株式會社に開発を依頼することにした。創業以来一貫して FileMaker を使った業務システムの構築に携わっており、製造業における生産管理、販売管理などについての造詣も深い。近年は日系企業のアジア進出に伴う海外案件も扱っている。
太田氏がネビュラの存在を知ったのは、Claris が全国各地でパートナーと共催している体験セミナーの案内メールだ。「セミナーを受けたところ、iPad と QR コードを使ったシステムや、Siri を使った文字入力など実践的な事例を紹介してくれました。ここなら任せられると思い、すぐにお願いしました」(太田氏)
開発にあたり、ネビュラ 代表取締役の松本 健吾氏は、iPad の利用を前提にシンプルで見やすい画面を心がけた。松本氏は「一般に生産管理システムは複雑になりがちなので、最初からいろいろな機能を詰め込みすぎず、運用で対応できるところは運用でカバーしていただくようにしました」と語っている。開発はプロトタイプを作成し、使いながら修正していくアジャイル方式を一部採用。現在でも必要に応じて修正を続けている。このような開発方針は太田氏も評価し、「しっかりしたコアがありながら、システムが無駄に大きくなりすぎません。その一方でかゆいところに手が届くシステムになっており、大変助かっています」と語る。
3. 製品画面に情報を集約し共有、マニュアルレスでも容易に製造工程を把握
太田工作の受注方法は約 8 割が取引先からの EDI (電子データ交換)だ。新システムでは、EDI データは 1 クリックで取り込み可能だ。製品が既にマスタに登録されていれば、そこから必要なデータを引っ張ってくる。工程管理表も自動的に生成する。一方、新規など見積もりが必要な場合は手入力での対応になるが、受注につながれば見積もりデータはマスタに反映されているので、改めて入力し直す必要はない。
製造工程では、Claris FileMaker で生成した QRコードを付けた図面を出力し、製品とセットで、金属加工、溶接、塗装など複数の工程を流していく。作業員全員が FileMaker Go をインストールした iPad を持ち、QRコードを読み込むと、その製品の情報が表示される。製品ごとに使用した工具や NC プログラム、打ち合わせメモ、段取り等の画像又は動画を各作業者が iPad に入力して加工履歴をデータ化しておくことで、再受注品を製造する際に時間をかけて資料を探す必要がない。太田氏は、「1 年前に製造した製品の細かい仕様は覚えていられませんが、この記録を見ることですぐに思い出せます。何万点もある製品のマニュアルを作成するのは難しく、作ってファイリングしたとしても、探す手間がかかり結局使わなくなってしまいます。FileMaker で必要な情報をその場で全員が iPad に入力し、それをすぐに見られるようにしたことで、探したり思い出す時間が減り、加工の手戻りや加工不良が激減しました」と語る。
4. リアルタイムに状況把握ができ、迅速な顧客対応を実現
FileMaker で作成した画面はシンプルでわかりやすく、iPad でも使いやすいので、どの年代の社員でもすぐに利用できるようになった。太田工作にはベトナム出身の実習生も勤務しているが、Apple 製品に慣れ親しんでいる彼らはすぐに使いこなせるようになったという。
各工程が終わるたび、iPad で QRコードを読み込み、写真も撮影する。現在の工程の終了処理をしなければ、システム上、次の工程に進めないようになっている。iPad の画面では終了した工程はグレーアウトされるので、進捗状況が現場にいなくてもすぐわかる。「例えばお客様から納期を早めてほしいといった相談が来た場合、リアルタイムの進捗がわかるので現場に問い合わせなくてもその場で可否の返答ができます。また、各工程の終了時の写真が残っているので、問題が起きたときの原因究明も容易です。梱包時及び出荷時の写真もあるので、員数の不足やどのパレットに梱包したかといった問い合わせにもすぐ対処できます」(太田氏)
FileMaker Server は専用サーバーに格納され、データベースと関連付けた一部の画像データなどは、2 台の NAS 内の仮想環境に移された Linux サーバーに格納されている。現在の FileMaker は 25 年前と比べると飛躍的に性能が向上しており画像データも素早く処理できるが、初期に作った構造も一部残している。太田工作では PC が約 10 台、iPad が約 15 台、さらに内線通話と出荷処理に利用する iPhone を 5 台、入荷処理に利用する iPod を 1 台利用している。
5. FileMaker と iPad で収集したビッグデータは将来の資産に
太田氏は現在、その日の終業時の状況を FileMaker から表計算ソフトにエクスポートし、マクロで整形する。翌朝の始業時までに、翌日の作業内容を担当部署ごとに分けて、メッセージアプリに送ると同時に、紙でも朝礼で配付している。今後はこの作業をなくし、FileMaker から必要な情報を自動的にメッセージアプリに送信できるようにしたいと考えている。 FileMaker のデータ API 連携機能を使えば比較的容易に実現するという見込みの下、検討を開始した。
「FileMaker と iPad を使えば、社内のデータを容易に収集でき、データベースとして蓄積できます。これは日々の業務に活用するだけでなく、蓄積することでビッグデータとなり、将来的に有用な資産となります。もう当社は、FileMaker なしでは回りません」(太田氏)
【編集後記】
太田氏が自ら FileMaker で構築したシステムを見たネビュラの松本氏は、「プロでなくてもここまでできるのか」と驚いたという。プロをも唸らせるシステムを構築しながら、それでも製品のコストを下げ、品質を高め、納期を短縮するという目的のために、内製から Claris パートナーへの外注へと舵を切ったのはまさに英断と言えるだろう。これまでのプロセスや方針に固執せず、本来の目的を貫く姿勢こそが、同社が長きにわたって顧客の信頼を勝ち得ている源泉だと感じた。
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