
目次
- 課題:複雑さと保全のバランスをどう取るか
- ゾウの識別における革新的なアプローチ
- 数字にとどまらない総合的な保全アプローチ
- FileMaker がワークフローにもたらした変革
- 人間と野生生物の共存への貢献
- ゾウの保全を超えて広がる FileMaker ソリューションの可能性
インドのアッサム州に位置するカジランガ国立公園は、世界最大級のアジアゾウの生息地です。ここで活動する研究者チームは、ゾウという雄大な生き物を深く理解し、将来にわたり守り続けるための新しいアプローチに挑んでいます。
この取り組みを支えているのが Claris FileMaker テクノロジーです。データ管理や分析の効率化により、活動はより洗練された効果的なものへと進化し、インドにおけるゾウの未来に大きな希望をもたらしています。
この記事では、献身的なチームが革新的な戦略とテクノロジーのビジョンを実現し、ゾウの個体群の健全な維持と地域社会との共生の両立を可能にした、FileMaker ソリューションの活用事例をご紹介します。
1. 課題:複雑さと保全のバランスをどう取るか
効果的な保全戦略を実現するには、ゾウの個体数や群れの動向、健康状態、移動パターンなどを正確に把握することが不可欠です。しかし、従来のカウント方法では過少評価や偏りが生じることが多く、ゾウの個体群に関する重要な情報が見落とされていました。
研究チームには、複雑なデータや数万枚におよぶ写真を処理でき、なおかつ現場の研究者にも使いやすい、高度なシステムが必要でした。
2. ゾウの識別における革新的なアプローチ
Conservation Initiatives の共同創設者でありディレクターを務める Dr. Varun R. Goswami 氏の先駆的な取り組みにより、この NGO は先進的な象のモニタリング手法を導入しました。それは、FileMaker を基盤とした包括的な写真データベースを活用するというものです。
この視覚的なアプローチを用いたソリューションによって、研究者はゾウを個体ごとに識別できるようになり、個体数やその他の重要な指標を、信頼性の高い統計手法を用いて推定できるようになりました。以前は煩雑だった作業プロセスが、FileMaker によって効率的かつ合理的なワークフローへと生まれ変わり、ゾウの個体群に関する新たな知見の発見が可能になったのです。
Conservation Initiatives の科学者である Parvathi K. Prasad 氏は次のように述べています。「FileMaker の最大の強みは、あらゆる種類のデータを一つのカスタマイズ可能な画面に統合できる点で、大量のデータを扱う私たちにとって非常に使いやすいのです」
「FileMaker の最大の強みは、あらゆる種類のデータを一つのカスタマイズ可能な画面に統合できる点で、大量のデータを扱う私たちにとって非常に使いやすいのです」
— Conservation Initiatives の科学者、Parvathi K. Prasad 氏

それぞれのゾウが、人間の顔と同じように固有の身体的特徴を持っていることに着目し、チームは個体識別のための高度な手法を開発しました。耳の形、牙の配置、尾の模様など、ゾウごとの特徴を詳細に記録した写真を用いることで、研究者たちはゾウの暮らしぶりを豊かに描き出す、動的な写真データベースを構築しました。
この綿密なアプローチには複数の段階のプロセスがあります:
- 包括的な写真:研究チームは数年にわたる大規模な調査のなかで出会ったすべてのゾウを撮影します。
- データベースの統合:撮影された写真は細心の注意を払って FileMaker のデータベースに記録されます。
- 個体の識別:研究者はゾウの固有の特徴を記録し、それぞれのゾウの個別のプロファイルを作成します。
- 個体群のモニタリング:データベースに蓄積された情報は、統計ツールと組み合わせて分析され、ゾウの個体数や移動に関するパラメータを推定します。
- 行動パターンの追跡:出現情報、群の構成、移動パターンが記録され、個々のゾウのプロファイルが豊かに補完されていきます。

単なる写真記録を超えたこの情報は、今や「生きた」データベースとして機能しています。 個々のゾウの識別情報や行動、移動パターンといった重要なデータが蓄積されており、ゾウの暮らしや彼らが直面する課題について、これまでにない深い理解をもたらしています。
3. 数字にとどまらない総合的な保全アプローチ
この FileMaker ソリューションは、今や研究者にとって欠かせないツールとなっており、ゾウの行動、個体群の変動、そして人とゾウとの関係性に関する深い洞察を引き出すことを可能にしています。具体的には、以下のような活用がなされています:
- ゾウの行動の追跡:ゾウの移動経路をマッピングすることで、生息地の好み、保全の必要性、環境の変化に対する反応が明らかになります。
- 個体ごとの長期モニタリング:複数年にわたって個体を追跡することで、生まれてから死ぬまでの軌跡、群の中での社会的な関係性の変化、行動の変化についての洞察を得ることができます。
- 個体数の評価:時間の経過とともに個体数の変化を分析することで、環境の変化に対するゾウの反応を理解できます。
- ソーシャルダイナミクス(群れの社会的変化)の理解:ゾウの群れにおける複雑な社会的つながりの変化を読み解くことで、家族構成や社会的相互作用に関する新たな知見が得られます。
- 人間とゾウの軋轢(あつれき)の緩和:人間とゾウとの間の潜在的な軋轢を評価することは人間と野生生物の両方の安全を確保する戦略につながります。
- 現場での保全管理に貢献:これまでに挙げた調査や分析の方法は、現場での具体的な保全活動に必要な情報を提供し、実際に役立つ戦略づくりにつながっています。
この取り組みは今やカジランガ国立公園の枠を超え、人間の影響が強い環境でゾウがどのように生き抜いているかを調査する研究を支えています。例えば、インドの茶畑は断片化された生息地をつなぐ重要な通り道として機能し、ゾウと地元コミュニティの人々が接する場所にもなっています。
4. FileMaker がワークフローにもたらした変革
カスタム App により研究プロセスがデジタルに変革し、次のような成果につながっています:
- データ管理の効率化:写真や詳細な身体的特徴など、ゾウに関する包括的なデータを一元的に整理・保管できるデジタルリポジトリを構築。これにより、データの追跡・分析・検索が効率的に行えるようになりました。
- 正確な個体数の推定:定期的な調査と写真による識別を組み合わせることで信頼性の高い個体数の推定が可能に。ゾウの健康状態や個体群の動向を把握するうえで不可欠な基盤となっています。
- 個体識別の迅速化:特定の形態学的特徴に基づくフィルター機能により、写真の比較対象を絞り込むことができ、手作業による照合の手間を大幅に軽減。識別作業のスピードが飛躍的に向上しました。
- 長期モニタリングの実現:カスタム App によって長期にわたる個体・群れのモニタリングが可能となり、象の行動や個体群の変化に関する重要な知見が得られるようになりました。
- コラボレーションの強化:関係者同士のスムーズな連携を可能にし、情報や知見の共有を通じて、象の保全活動に協力して取り組む体制を実現しています。
FileMaker ソリューションをさらに強化するために、Conservation Initiatives はセマンティック検索の将来的な活用方法を調査しています。この AI 機能を使えば、ユーザは「何を」「どうやって」検索すればよいかがはっきりわからない場合でも、カスタム App に自然な形で質問するだけで、既存データからすぐに答えを得ることができるようになります。
例えば、研究者が「川のそばにいる象の写真」とリクエストをすると、写真の説明文に「川」などのキーワードが含まれていなくても、該当する画像が瞬時に表示されます。このセマンティック検索の機能により、数万枚に及ぶ写真の中から目的の情報を探す手間が大幅に削減されると期待されています。さらに詳しく。
5. 人間と野生生物の共存への貢献
プロジェクトの成功は単なる学術的な研究にとどまりません。地元の森林職員へのトレーニングや、関係機関とのデータを共有により、保全チームは研究者、政府機関、そして地域社会とのより強固な協力関係が築かれました。こうした協働的なアプローチによって、より効果的な保全戦略が生まれ、情報に基づく意思決定を実現しました。
このプロジェクトの最も重要な成果の一つが「人間とゾウの共存」への貢献です。保全チームは地域のコミュニティと協力し、人間とゾウの共存を促進するとともに、持続可能な取り組みを推進することで、人間とゾウの双方の健やかな暮らしを守ることを目指してきました。この協働的なアプローチは、人間とゾウとの間に調和のとれた関係を築くうえで重要な役割を果たしており、地域における保全活動をより持続可能で効果的なものにしています。
6. ゾウの保全を超えて広がる FileMaker ソリューションの可能性
研究と技術のビジョンから始まったこの取り組みは、いまやアジアゾウの個体群を監視・保護するための貴重なツールへと成長しました。FileMaker のテクノロジー、厳格な科学的手法、および野生生物への深い敬意を組み合わせることで、Conservation Initiatives は保全研究分野において新しいデジタル戦略を切り開いてきました。
この保全アプローチには、さらなる可能性が広がっています。現在はインドのアジアゾウに特化していますが、この手法は他の種にも柔軟に応用することができ、世界中の野生動物保全における新たな指針として活用できる可能性を秘めています。
謝辞:Winsoft International は 20 年以上にわたって Claris の信頼できるパートナーとして、インド、中欧、東欧、中東、アフリカ地域でのソフトウェアのローカライズと展開を支援してくれました。今回、FileMaker の魅力的な活用事例を紹介してくださったこと、そして Conservation Initiatives との連携を通じて本ストーリーの企画と構成にご協力いただいたことに、心より感謝いたします。