事例

ISP 事業者 STNet、ローコード開発で業務効率化を加速

目次

  1. ISP 事業社 STNet の DX への取り組み
  2. 契約増で郵送費・印刷費・倉庫費用などの間接コストが負担に
  3. DX に向けてまずは Claris FileMaker の理解を深める
  4. 着手から 6 か月で抱えていた課題を一気に解消
  5. STNet のデータセンターを活用しセキュリティを確保
  6. 現場から感謝してもらえることを強く信じて

1. ISP 事業社 STNet の DX への取り組み

株式会社 STNet(本社:香川県高松市)は、四国電力株式会社(証券コード: 9507)の 100% 子会社で、1984 年に四国電力の情報システム部を分離し設立された ISP(インターネットサービスプロバイダ)事業社だ。事業内容は 1. 個人・法人向けの通信事業、 2. 法人向けのシステム開発事業、 3. データセンター事業を 3 つの柱としている。

主力の通信事業は、通信回線サービス・ISP 事業・IP電話サービス・光放送サービスなどを提供し、インターネット通信「 Pikara(ピカラ)光」は最速 10G でのサービスを四国 4 県に展開しており、さらに 「ピカラモバイル」ではNTT ドコモ、au、ソフトバンクの各キャリア回線から選択できるMVNO 格安 SIM サービスを提供している。

これらサービスの累計契約数は、40 万件を突破。そのリーズナブルなサービスによって契約数を順調に伸ばしており、四国内では高い知名度を誇る。

データセンター事業では、2013 年に自然災害リスクが低く、利便性の高い高松市に、西日本最大級のデータセンター(パワリコ)を建設。これは東日本大震災を契機とした、「重要な情報資産を安心安全に蓄積できるデータセンター」の需要の高まりを受けたものだ。最先端の設備と万全のセキュリティ対策を施し、データの管理・運用・保守までをワンストップで提供している。四国電力の子会社という信頼性と知名度を背景に、四国のみならず関東圏の顧客からも高い評価を得ている。

2. 契約増で郵送費・印刷費・倉庫費用などの間接コストが負担に

同社でコンシューマー営業部門および販売現場全体の営業 DX を担当し、現在 STNet 愛媛支店 コンシューマー営業課に在籍する 大井 宏樹氏は、通信サービスの申込手続きの現場に残る “紙の運用” が業務効率化のボトルネックになっていることに着目した。

「STNet の販売パートナー(代理店)様に、日々、家電量販店やご訪問などでお客様にインターネットのご提案や契約のお取次を頂いてますが、紙で運用せざるを得ない業務が多々残っていた」と振り返る。

申し込み手続きに必要な書面は主に申込書と、重要事項説明書の 2 つがある。申込書に関しては既に内製でデジタル化をしており、営業現場に配布している iPad で入力した内容が瞬時にデータ化されているものの、注意事項や個人情報に関する同意、サービス品質の確認のための重要事項説明書は複写式の紙を使用しており、その運用・管理が悩みの種となっていた。

Claris FileMaker 導入後の申込および重要事項説明のデータの流れ

「開通工事は、お客様にサインをいただいた契約書の内容を目視で確認してから進めます。紙の運用の場合、現場が遠方にある場合は郵送で書類のやり取りをしなければならず、申し込みからサービス開始までにタイムラグが発生していました。また、郵送費、複写式用紙の印刷費、重要事項説明書の倉庫保管費用などの間接コストも増大していました。さらに、用紙の管理やレターパックの梱包・発送といった事務作業に現場スタッフが忙殺され、業務効率化の妨げになっていました」(大井氏)

3. DX に向けてまずは Claris FileMaker の理解を深める

紙運用の課題を解決すべく、大井氏が馴染みの IT ディストリビューターに相談したところ「ローコード、ノーコード開発であれば実現したいツールが作れるのではないか」というアドバイスを受ける。そこで思い出したのが、法人向け営業部門に所属していた時に耳にした、Claris FileMaker の名前だった。

大井氏はさっそく、FileMaker でのシステム開発に強みを持ち、地場で高い評価を得ている Claris 認定パートナーの エーアールシステム株式会社(高松市)に重要事項説明書のデジタル化を相談した。

エーアールシステム株式会社の代表取締役 長町 和俊氏は、単なる受託開発ではなく ローコード開発プラットフォーム Claris FileMaker の特徴を理解して導入することが 現場の DX を実現するうえで重要であると説き、STNet 社内で FileMaker の体験セミナーを開催して、実際の使い勝手を理解してもらう機会を設けた。

その狙いについて長町氏は、「Claris FileMaker で何がどこまでできるのかを現場の方に理解していただくことでカスタマイズ要望をイメージすることができますし、一部の変更などは自分たちでできることを判断できるようになることで、開発側も効率的に仕事ができるようになります。そして何よりアプリを一緒に作るという目線でワクワクすることが大切です」と現場を巻き込むアジャイル開発のメリットを語る。

4. 着手から 6 か月で抱えていた課題を一気に解消

Pikara 光は地元ケーブルテレビ局と設備を共有しているという背景もあり、契約内容も地元の局に合わせてまちまちである。大筋の流れはあるものの、A 地区はこの項目が必要、B 地区ではその項目はいらない、といった具合だ。そのため、重要事項説明書のチェックシートは地域別に 30 パターンほど存在する。

「A3 用紙のサイズの帳票に項目をすべて収めることが条件だったため、設問によってスペースにばらつきがあるチェックシートのレイアウト編集作業は苦労しました。開発に関しては、試行錯誤しながら一つ一つの課題を解決しました」と長町氏。

まずは一部地域限定で試験運用するプロトタイプを 3 か月で完成させ、それを現場で使いながら毎日のように修正を加えたという。大井氏は「2023 年 9 月にはプロトタイプが完成し、 2024 年 2 月には本格運用が開始されました。複雑な要望をすべて聞き入れてくれたエーアールシステムの技術力には感謝しています。自分自身、アジャイル開発を間近に体験できる良い機会でした」と振り返った。

大井氏に FileMaker 導入の効果について質問すると、次のように語ってくれた。

「劇的な納期改善につながりました。インターネット開通までの時間が大幅に短縮されたことにより、お客様満足度も高まったと思います。申込みから重要事項説明までが一気通貫でデジタル化され、スタッフは事務作業の負担から解放されました。現場からは『もうなくてはならないツールになった』との好意的な意見が寄せられています。さらに、郵送費・印刷・倉庫保管のコストも激減し、我々が抱えていた課題を一気に解決することができました」

また、重要事項説明書には、番号移転(ポータビリティ)手数料など、他電話事業者の都合によって内容が改定される項目も記載されている。紙で運用していた頃は急な変更が入った際に、記載内容を変更して印刷し、現場に配布するまでにリードタイムが発生したため、一定期間は説明員がアナログに対応する必要があった。現在は、FileMaker 側で変更すれば即時反映されるため、タイムラグも手間もなくなった。

Claris FileMaker で作成した重要事項説明アプリ。 煩雑な業務がシンプルな UI で簡単に

5. STNet のデータセンターを活用しセキュリティを確保

STNet が導入した FileMaker Server は Powerico(パワリコ)内に設置され、本社管理者は Web ブラウザでアクセスできる「Claris FileMaker WebDirect 」を利用している。「FileMaker WebDirect の操作性はデスクトップアプリ Claris FileMaker Pro と何ら変わらず、サクサクと作業できるので満足しています」と大井氏は言う。

セキュリティの面については、STNet 本店での FileMaker WebDirect の通信を、443 ポートを使って固定 IP で通過するように設定。さらに、各店舗の iPad は 特定端末のみ利用できるようにし iPad 認証とアプリ認証の 2 段階認証で運用している。

長町氏は「iPad 側には個人情報は保存されず、すべて STNet のデータセンターにある FileMaker Server にデータ保存されています。万が一の紛失や盗難などがないようセキュリティを高めています」と説明した。

重要事項説明書の入力フォーム。複写用紙の運用から iPad(Claris FileMaker Go)入力に運用変更

6. 現場から感謝してもらえることを強く信じて

システム運用開始後は、 エーアールシステムがアプリの保守・改修作業を担っているが、チェックシートの設問内容などの簡単な変更は、本社で編集するようにしている。ガイドラインや手数料の変更を即時に反映でき、リアルタイムで情報更新できる FileMaker の特性に、現場の運用も助けられているという。

今回のプロジェクト成功を受け、大井氏は FileMaker 導入を検討している企業に向けて最後にこうメッセージを贈った。

「現場から感謝してもらえることを強く信じて、DX プロジェクトを推進してほしいですね。業務に変革をもたらす際には反対意見が出てくることもありますが、私たちの場合は FileMaker に触れて FileMaker の利便性を実感することで風向きが変わり、結果的にプロジェクトが成功しました。きっと FileMaker は DX 担当者の強い味方になってくれるはずです」(大井氏)

長町 和俊 氏(エーアールシステム株式会社 代表取締役)と 大井 宏樹 氏 ( STNet 愛媛支店 コンシューマー営業課)氏

【編集後記】

インタビュー中、エーアールシステム 長町氏から、「中小企業である当社が、四国内では雲の上の存在である大手企業の STNet と取引するということはふつうならまずあり得ません。ところが今回、ローコード開発をきっかけに取引ができるようになりました」という言葉が出た。今回の事例のように、IT ベンダーの役割は従来のシステム開発を受託するというものに加え、ローコード開発ツールを使って業務プロセスの改善やそのためのコンサルティングといった「ユーザの DX を手助けする」という役割に変わってきている。IT ベンダー側が確かな技術を持っているということが前提になるのはもちろんだが、一方は業務改善、他方はビジネスチャンスの獲得と、win-win 関係の縁を Claris FileMaker が取り持ったのであれば筆者として嬉しい限りだ。