お客様事例

公立千歳科学技術大学

AI・AR と iPad を活用して大学生がアプリ開発で地域課題の解決に挑戦

PBL(課題解決型学習)を通したアクティブラーニングを実践

公立千歳科学技術大学は 2019 年 4 月に公立大学化した際、「地域連携センター」を設置し産学連携を強化し、学生が自ら問題を発見し解決する能力を養うことを目的とした Project Based Learning (課題解決型学習)に積極的に取り組んでいる。同大学 曽我研究室では、文部科学省が推奨するアクティブラーニングを実践。学生が地元企業や公共機関などに実際に足を運び、地域の人々と連携して課題を見つけ、それを解決するためのサービスの企画、提案、システム構築を行う PBL (課題解決型学習)を通して学びを深めている。PBL に取り組む学生は地域と連携して課題を解決するためのサービスの企画・提案およびアプリ構築を行っており、ローコード開発プラットフォーム「Claris FileMaker」および Apple が提供する機械学習ツールキット「Create ML」などを活用して「機械学習による支笏湖(しこつこ)の鏡面現象予測」、「桜の開花予測」、「埋蔵文化財の AR(拡張現実)」などのアプリを短期間で実装し、地元観光サービスの向上に寄与している。

また、公立千歳科学技術大学では、Claris が人材育成や地域の課題解決に取り組む教育機関を対象に無償で Claris FileMaker のライセンスを提供する「FileMaker キャンパスプログラム」を 2013 年から導入し、短期間でアプリ開発が可能なローコード開発プラットフォーム「Claris FileMaker」を長年 ICT 教育に活用している。

公立千歳科学技術大学

支笏湖の鏡面現象を予測

日本最北の不凍湖、支笏湖は、鏡面現象(景色などが鏡のように水面に反射する現象)で人気の観光地だが、5 月から 7 月の期間に観光客が減少傾向にあるという課題を抱えている。また鏡面現象の成立には明確な基準が存在せず、それまで現象が発現したか否かは主観で決定がなされていた。

同研究室は、写真から鏡面現象か否かを判定する機械学習モデルを Apple が提供する機械学習ツールキット「Create ML」を活用して 「Core ML」 のモデルを作成。現地に設置したカメラや、気温・風速・気圧を測定するセンサーの情報から、「現在鏡面現象が起きているか・将来起きるか」の予測を可能にするカスタム App を FileMaker で構築した。また、過去の鏡面現象の発生頻度などの情報提供や、実際の鏡面の発現をリアルタイムで通知する機能も実装し、観光客の集客にも寄与している。

支笏湖の鏡面現象

世界遺産の埋蔵文化財を AR で再現

千歳市埋蔵文化財センターでは、世界遺産である北海道・北東北の縄文遺跡群の一つ、キウス周堤墓群の発掘調査で出土した文化財の展示を行っている。しかしさまざまな問題から、出土品の全てを展示できないという課題があった。

同研究室は AR(拡張現実)技術を活用し、来館者が iPad で閲覧したい展示物を選択し、展示エリアに端末をかざすと、立体モデル化された展示品を 360° さまざまな角度から見ることができ、音声ガイドが自動で流れるというサービスを「ARkit」を用いて提供。限られたスペースで多くの埋蔵文化財を実寸大で展示することに成功した。立体モデルは「Scaniverse - 3D Scanner」「Blender」「Reality Composer」を用いて作成し、ガイドのためのアプリは Claris FileMaker Pro で構築している。

埋蔵文化財を AR で再現するアプリ

桜の開花予測やシャトルバスの混雑度予測などの研究も短期間で実現

同研究室の卒業研究では他にも、桜の開花予測や学生が利用するシャトルバスの混雑度予測、千歳水族館への来館を促進するためのアプリ提案、地元企業の古資料のデジタルアーカイブ化など、FileMaker とさまざまなテクノロジーを組み合わせた研究を進めた。4 月の研究開始から研究成果の発表まで、わずか 10 か月という短期間で、地域の課題発見からヒアリング、企画、システム構築、ユーザテストと実装したアプリの改良までを行った。

桜の開花、紅葉の見頃を予測するアプリ

FileMaker が学生たちから支持されている一番の理由は、ローコード開発によるスピード感だという。本格的なプログラム言語を調べたり学んだりせずともアプリを構築することができ、データの紐付けやレイアウトの作成を直感的に進められる点は、短期間でのアプリ開発、テスト、ユーザのフィードバックを受けての改良というアジャイル開発の大きな助けになった。また、FileMaker は JavaScript を使うこともできるので、グラフ表現などに利用し、ユーザの使用時の満足感を高められるようになっている。

鏡面現象の発生を予測するアプリにもグラフが使われている

FileMaker の開発者として活躍しながら、公立千歳科学技術大学で非常勤講師として学生たちを支援してきた Claris パートナーの株式会社 DBPowers 代表取締役 有賀 啓之氏は Apple のデバイスやテクノロジーと FileMaker の親和性について次のように評価している。

「Create ML で作られた Core ML は、Apple のデバイス上で AI を高速かつ省電力で実行できます。 iPhone や iPad がネット圏外でも利用できますし、高速に処理できます。FileMaker と組み合わせることで、簡単にアプリとして実装することが可能ですので、学生は短期間にさまざまな課題に取り組むことが可能です」(有賀氏)

また公立千歳科学技術大学 教授の曽我聡起氏は、PBL を通じた地域貢献や人材育成について、次のように語る。

「FileMaker が機械学習に対応し、AI を活用できるようになったのは非常に大きなことです。PBL を通じて、総合的な視点で能動的に学習し、Apple が 提供するさまざまな技術を応用して地域課題の解決へ向けた提案ができていると思います。仕様に従ったコーディングをするプログラミングも大切ですが、そのプログラムで実現する先のことも考え、社会で本当に役立つものを考えられる先進的な人材に育ってくれることを期待しています」(曽我氏)

2023 年 1 月 には、同研究室の 3・4 年生が公開ゼミで地域の住民に研究の成果を発表した。7 つのアプリが発表された、公開ゼミの様子を紹介した記事はこちら