お客様事例

全日本革靴工業協同組合連合会

パンプスのセミオーダーを FileMaker でデジタル化し、業務のミスや無駄を減らして豊かな購入体験を実現

多くの方が自分のサイズを知り、もっと楽しく買い物ができて、足を痛めたりすることがなく、革靴を楽しく履けるようになってくれればいいなと思います。

全日本革靴工業協同組合連合会 革靴認証事業部長 元田真吾氏

JIS 規格の 2 倍のサイズバリエーションを用意し、ぴったりのサイズと好きな形、素材、色を選べるパンプスのセミオーダーに、Claris FileMaker のカスタム App が利用されている。オーダーの作成やデータ入力のミスをなくし、紙のオーダーシートの問題点も解決。その上、店頭で顧客に豊かな購入体験を提供するツールにもなっている。

288 種類の靴型から自分に合うパンプスをセミオーダー

ぴったり合うサイズのパンプスがなかなか見つからない。多少足が痛くても歩きづらくてもしかたないとあきらめている。そのように思っている人は、おそらく少なくないだろう。

全国にある 4 つの靴メーカーの協同組合で構成されている全日本革靴工業協同組合連合会では、こうした悩みを解決するプロジェクトを 2011 年に始めた。

日本の女性用の靴はJIS 規格で144 種類のサイズが定められており、多くの靴にはこれに基づいて「24E」などとサイズが表示されている。

これに対し、サイズのバリエーションを増やしたセミオーダーサービスが「i/288」(ニーハチハチブンノアイ)だ。同連合会の革靴認証事業部長、元田真吾氏は「JIS 規格は 144 サイズなんですけど、その倍の 288 サイズの靴を全部作る。お客様はそれを自由に履き比べ、自分に合うものを探せる。i/288 がそこで生まれました」とサービスの趣旨と名前の由来を語る。

足の形について研究してきた国立研究開発法人産業技術総合研究所 名誉研究員の河内まき子氏は靴型について「日本人に限らず、足の形の個人差ってとても大きいのです。それに対して靴型のバリエーションってとても少ないです。i/288 の靴型は、100 人の女性に何度も評価してもらうという実験を繰り返して、その結果、一番評価の高かった靴型からできています」と説明する。

全日本革靴工業協同組合連合会 革靴認証事業部長 元田真吾氏

国立研究開発法人産業技術総合研究所 名誉研究員 河内まき子氏

店舗数と注文が増え、紙のオーダーシートは限界に達した

購入を希望する顧客は、i/288 のサービスを提供しているショップを訪ね、足を 3D 計測する。その計測データをもとに、近いサイズの靴を試着する。ヒールの高さや先端の形によって履き心地が変わるので、実際に履いて試せるのは重要だ。サイズと形が決まったら、革の素材や色を選んでオーダーする。

プロジェクトの研究結果をもとに、まず直営店でこのサービスを開始した。その後、百貨店でいくつかのポップアップストアを運営し、好評を得たことから百貨店内にも常設ショップを開設した。

最初は紙のオーダーシートを使っていたが、ポップアップストアの運営を機にオーダーシートのデジタル化が急務となった。2 つの課題を解決する必要があったからだ。

ひとつは、オーダーの入力にかかる時間やミスの発生を減らすことだ。当初は店頭で記入した紙が工場にファクスやメールで送信され、それを担当者2 人がシステムに入力し、読み合わせをしてミスをつぶしていた。しかし店舗の増加に伴ってオーダーが大幅に増えたため、この方法に無理が生じた。どこかでミスが生じれば、最悪の場合、靴を作り直すことになる。

もうひとつは、紙の無駄を減らすことだ。もともと紙のオーダーシートには、このサービスで提供するオプションがすべて印刷されていた。しかし百貨店では扱う商品が一部異なり、サービスの利用規約も百貨店ごとに異なる。百貨店ごとのオーダーシートを印刷しても、ミスがあったり不足や余剰が発生したりと問題が多かった。

足を3D 計測し、このデータをもとにパンプスをセミオーダーする

顧客と相談しながらiPad でオーダーシートを作っていく

入力担当者が 2 人から 1 人になり、紙の書類にまつわる問題も解決

デジタル化の相談を受けてカスタム App を開発したのが、Claris パートナーである株式会社ジェネコムだ。担当となった山本剛史氏は「紙のオーダーシートを iPad に置き換えられれば、ワークプレイス・イノベーションの実現につながると確信しました」という。そして相談を受けてから3 か月後にはカスタム App が稼働し始めた。業務のワークフローとデジタル化の目的がはっきりしていたので、短期間で開発できたと山本氏は語る。

店頭ではネットワーク環境が整っているとは限らないが、オフラインでも使用できるという Claris FileMaker の利点を生かし、iPad がオンラインになった時に受注したデータがクラウドに送信されるようにしている。

クラウドに送信されたデータを翌日、工場でダウンロードし、Claris FileMaker で構築された生産システムにインポートすると生産指示書になる。iPad を使わないオーダー方法も一部に残っているので紙からのデータ入力作業が完全になくなったわけではないが、従来は 2 人いた担当者が今では 1 人で十分対応できるようになり、もう 1 人には別の仕事をしてもらえるようになった。

大量の紙のオーダーシートを作成したり保管したりする負担も解消した。しかも、店舗からクラウドに送信されるデータには顧客の個人情報を含めていないので、シートに誤って個人情報が書かれていたらどうするかという懸念も解決した。

株式会社ジェネコム 山本剛史氏

オーダーを iPad に置き換えられれば、ワークプレイス・イノベーションの実現につながると確信しました。

株式会社ジェネコム 山本剛史氏

店頭でミスなく楽しく靴を購入できる

髙島屋 大阪店でこのカスタム App を使っている川野恭延氏は「iPad 上ですべて完結しますので、データの管理もとてもしやすくなりました。iPad のオーダーシート自体がすごく見やすいので、お客様が次にどこを記入するかわかりやすくて、効率的に完成します」と語る。

オーダーシートの作成は、顧客がサンプルの靴を履いた写真を撮影するところから始まり、サイズを入力、ヒールの高さを入力、デザインを選択……と進む。例えば A のデザインで作れる靴はエナメルのみだとすると、A を選んだら次の画面にはエナメルしか出てこないため、ミスなくオーダーできる。紙のオーダーシートでは時折発生していた組み合わせの選択ミスがゼロになった。

セミオーダーの i/288 とは別に、全日本革靴工業協同組合連合会では髙島屋 大阪店と協力して「MY SIZE studio」というサービスも提供している。これは 3D 計測した足のデータをもとに履き心地の基準となる靴を試着してサイズを決め、それに近いサイズや形の市販の靴を提案するサービスだ。顧客は靴売り場の店頭に設置された iPad で Claris FileMaker カスタム App を自分で操作し、靴を探すことができる。

「自分のサイズが売り場にないと思っている方が結構いらっしゃるので、測定し、自分のサイズを知っていただく。実は店頭の中から選ぶことができるんだとわかっていただいたり、お客様がお買い物をとても喜んでいただけるところが良かったです」と川野氏は見ている。

髙島屋 大阪店 川野恭延氏

MY SIZE studio のサービスでは、顧客が店頭の iPad を操作して自分に合う靴を探せる

使いながらアジャイルで改善

i/288 のセミオーダーを注文する時、店頭では最初にサンプルの靴を履いた写真を iPad で撮るところから始めると前述したが、実はこの手順はカスタム App の利用開始時には含まれていなかった。しかし実際にセミオーダーの靴が完成してフィッティングをする際に、サンプルを履いた時との客観的な比較が必要になることがあるため、最初に写真を撮るようにプロセスを変更した。ほかには、アンケート機能なども後から追加された。

元田氏は「実際に使っている現場を見ると、あそこもちょっと直したい、ここもちょっと変えたいということが日々出てきます。それをジェネコムさんに投げると即座に対応してくれたり、より良い解決策を提示してくれたり、どんどん改善されていく。そういう使いながらでも更新できる Claris FileMaker のアジャイル性がいいところだと思います」と語る。

カスタム App が豊かな購入体験の提供にもつながる

髙島屋 大阪店の川野氏が述べたように、i/288 や MY SIZE studio は、わかりやすさや喜びといった体験を顧客に提供している。

元田氏も、Claris FileMaker のカスタム App が楽しい購入体験に果たしている役割をこう語った。「i/288 セミオーダーのカスタム App は、お客様の氏名や送り先住所の入力などを除いては店舗スタッフが操作する前提で作りました。しかし実際にはお客様が iPad を手にとってあれこれ選んでいます。それがとても楽しそうなのです。年齢層の高いお客様も抵抗なく使いこなしています。これはデジタル化を考えた時には想定していなかった効果でした。自分にぴったり合う靴が見つかるのは楽しいことで、我々は体験を売っていると思っています。体験には道具も深く関わりますから、直営店のソファーやスタッフの制服などのブランディングにも気を配りました。そこに Claris FileMaker のステキでおしゃれなシステムが入ることで、さらに全体が楽しくなりました」


全日本革靴工業協同組合連合会

所在地:東京都台東区東浅草2-17-1

業種:靴メーカーの協同組合連合

概要

全日本革靴工業協同組合連合会は、一人ひとりの足に合うパンプスを提供するために靴型から見直した「i/288」(ニーハチハチブンノアイ)というセミオーダーのサービスを開発した。サービス開始当初は紙のオーダーシートを使っていたが、受注後のデータ入力に時間がかかりミスも発生すること、また用紙の準備や受注後のシートの保管に負担がかかることから、デジタル化、ペーパーレス化が急務となり、FileMaker のカスタム App を導入した。これにより、接客中に作成したオーダーシートのデータが生産指示書にそのまま反映され、しかも顧客は購入の楽しさを体験できるようになった。

導入成果

  • 紙のオーダーシートからのデータ入力が不要になり、2 人必要だった作業が 1 人でできるようになった。
  • 紙のオーダーシートの作成ミスや無駄、保管の手間、個人情報保護の懸念が解消した。
  • 3 か月という短期間でデジタル化を果たし、導入後もアジャイル性を生かして改善を続けている。
  • 顧客が店頭で自分に合う靴を楽しく選ぶ体験の一部として iPad と Claris FileMaker カスタム App が機能している。