今年の FileMaker カンファレンスでは、FileMaker のコンセプトである『Workplace Innovation Platform』に関連したセッションも多く開催されました。それらのセッションでは、FileMaker のはじめ方や使い方といった技術セッションの紹介のみならず、「私たちがイノベーションを起こすためにはどうあるべきか」という、課題解決の前提へ立ち返るアイデアの共有がなされました。
2 日目午後に開催された「VUCA 時代の仕事のキホン~答えのない問いに答えを出す~」もその 1 つです。登壇は株式会社アイデミー執行役員、株式会社 Eight Arrows 代表取締役、グロービス経営大学院客員准教授の河野 英太郎 氏。
「答えのない問いに答えを出す」という一見矛盾をはらんだテーマに、これからの仕事のキホンを学んできました。
VUCA 時代とは?
VUCA 時代とは、Volatility 変動性, Uncertainty 不確実性, Complexity 複雑性, Ambiguity 曖昧性の頭文字をとった造語です。元々はアメリカ軍隊の用語ですが、2016 年あたりからクローズアップされはじめたと河野氏は話します。
「シンプルにいうと、VUCA とは今までの常識が通じない何か変化が起きている状態のことをいいます。つまり、過去の経験が活きない、過去の経験から答えが出ないということですね。外部環境が VUCA 化し、持続的に成長することが難しくなっている。だからこそ、俊敏にイノベーションをし続ける必要性が高まっています。」
VUCA で調べると、検索上位には、「リーダーシップ」や「教育」などのキーワードとあわせて語られているページを見かけます。今回のセッションでも参加者の方の多くがマネージャーや管理職の年代だったように感じました。学生や若手の方だともしかするとまだ馴染みがない言葉かもしれません。しかし、世の中の変化を表題する現象として挙げられた例をご覧ください。
・LIFESHIFT による働き方の変化
・GAFA ( Google,Apple,Facebook,Amazon ) によるデータ活用
・LINE / Slack による仕事の仕方やコミュニケーション自体の変化
こう並べてみると、変化は意外と身近なものに影響されていることがわかりますね。
なぜ、イノベーションが必要なのか?
まず、皆さんは「イノベーション」にどんなイメージをお持ちでしょうか。河野氏はイノベーションが大変革的に捉えられることが多いとしたうえで、より広義な意味に迫っていきます。
「もちろん大変革的なものも含まれますが、それだけではありません。シュンペーターはイノベーションを以下のように定義しました。
・創造的活動による新製品開発
・新生産方法の導入
・新マーケットの開拓
・新たな資源の獲得
・組織の改革
また、アメリカ人でダートマス大学日本語学科の学科長をされている方にイノベーションの定義について尋ねた際には、『基本的に新しいということ、日本語でいうと工夫だと思います』と、回答をいただきました。工夫であれば、皆さん普段からやってますよね。VUCA 時代といいつつも、ちょっと新しいことをやってみるとか、日々の活動を変えてみるとか、そういったことは、それこそがイノベーティブだというわけです。何か工夫をするマインドをもって何かを起こそうと思うことこそ、当たり前にやってかなきゃいけないことなのではないかと思います。」 つまり、求められているし、実践できることだとおっしゃっているわけですね。では、それぞれがイノベーションに取り組むためには、どうすればいいのでしょうか。
「変化が激しい中で、ご自身が先陣きってイノベーターになるべきかというと、そうではない。アーリーアダプターが側にいる環境に身をおくことで、入ってくる情報も、すばらしい発想も、学ぶ機会になります。」 自ら 0→1 で工夫を生み出し続けるとなると難しく捉えてしまうかもしれません。しかし、自分が常にイノベーションを起こし続けなければいけないわけじゃないんだと分かると、より実践できそうな気がしてきます。
変化の中だからこそ、シンプルなことを続ける。
セッションでは、日々工夫をするためのヒントとして、4 つのことを挙げられていました。今回のセッションは以下の本を題材にしているとのことなのでより詳しく知りたい方はぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。
『本当は大切なのに誰も教えてくれないVUCA時代の仕事のキホン』(出版:PHP研究所)
本セッションで河野氏が参加者に伝えていたことで特に印象深かったのは、「まずはやってみる」ということ。例として、あるロボットの映像が流れました。アーム型のロボットがシェイカーを振り、出来上がったカクテルをコップへ注ぐ。しかし、最後の方で液体がシェイカーの縁を伝い、コップからこぼれてしまいます。会場からは少し笑いが漏れました。でも、これこそ「やってみる」ということだと河野氏はいいます。
「かつて世界を席巻した日本の組織の慎重さが、今は足枷になっています。商品を世に出すときも完璧さを詰めに詰めてから発売する。一方で、中国企業やスタートアップ企業は、出荷してみて市場リアクションを見て改善を図ることが重要になってきています。」
〜書籍抜粋〜
近年、ソフトウェアやアプリなどの開発で「アジャイル」という手法が主流になっています。これは、不完全でも良いので短期間でベータ版をつくり、顧客に使ってもらって修正点を見つけ出して、徐々に完成度をたかめていくという手法です。その根底には、「最初から正解を出そうとするのではなく、クイックに試してみて、修正を繰り返したほうがニーズにあう」という考え方があります。
かつては先々まで見越した計画に基づき、長期間をかけて完璧な完成品をつくりあげる「ウォーターフォール」型の開発が主流でしたが、VUCA の時代には、「アジャイル」型のほうが適しているというわけです。
しかし、いまだに多くのビジネスパーソンは、これと真逆の状況に陥っています。解決策とおぼしき方法が目の前にあっても、「本当のこの方法で良いのだろうか」と実行をためらってしまう…。
VUCA 時代に問題解決をする上で最も避けるべき行動は、意思決定を先送りにして、何もしないことです。
実は世の中の 1 %しかやっていない「当たり前」なキホン。
「『書いていることはすべて、当たり前のことじゃないですか』と聞かれてしまったことがあります。ただ、『知っていることだとは思いますが、ちゃんとやっていますか。実は 1 %くらいの人しかやってないんじゃないでしょうか』と話したらなるほどと、納得していただけました。日々の仕事を少しだけ工夫すれば大きな成果が出る、と伝えたかったんです。」
これは冒頭の自己紹介で河野氏が著作の「99 %の人がしていない たった 1 %のリーダーのコツ」について裏話的に披露されたエピソードでした。今回のセッションでも「少しの工夫」をテーマに、日々の意識や無意識を変えていこうというお話をされていました。河野氏が実践としてあげた 4 つのお題は、やはり、どれもとてもシンプルなもの。イノベーションをゴールに定めて道を描くのは難しくとも、日々、少しの工夫を目標に一歩ずつ VUCA 時代の中でも歩いていくことはできそうです。
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