「誰もがプリンセスになれる」をコンセプトに、ロマンティックな世界観の洋服を販売している大人気ブランド Shirley Temple (シャーリーテンプル)は、三越伊勢丹・そごう西武・阪急など百貨店のほか、マガシーク、楽天ファッションなど EC を含めて 23 店舗を展開する子供服ブランドだ。コロナ禍においても一定の顧客層からのリピート需要に支えられ、近年は自社直販サイトでの売上を急速に伸ばしている。シャーリーテンプルの独占ライセンス販売を行っている有限会社エムケー(本社:富山県砺波市)が、顧客ニーズに応えるために新生産管理システムとして導入したのは、株式会社インフォアイが Claris FileMakerプラットフォームで開発したアパレル向け基幹システム「APASYS(アパシス)」だった。APASYS 導入によって、納期遅延の解消や iPhone での商品管理の実現など、同社にもたらされた変化について、導入プロジェクトを率いた中心メンバーに話を聞いた。
数々の独立したファイルと、膨大な量の紙
「APASYS を導入する前は、営業に関する業務は Excel 管理が中心でした。売上、顧客、受発注などそれぞれを別の Excel ファイルで管理していたため、 データ登録や帳票作成が煩雑になり、売上分析をしようにも複数のファイルを開いて、人力でデータ加工しなければならず、ほとんどがアナログ管理になってました。」と語るのは 営業販売部マネージャーを務める 鈴木 雄也氏。
同社においては、商品の販売だけでなく、デザインを含めて全てを担っているため、洋服の企画に関する資料も膨大な量になる。以前は紙で企画書を管理していたため、引っ越し用ダンボールサイズにして毎月 20 箱分以上の書類を保管していた。新商品だけで年間 10 万点以上のアイテムを出荷している同社において、アナログな業務管理が大きなネックとなっており、過去には納期遅延も発生していたという。
基幹システム導入時のこだわり
今回のシステム導入選定にあたっては大きく分けて、本部・店舗・倉庫での運用を想定した基幹業務システムとして検討が進んだ。
「基幹システム導入にあたっては、 5 社以上の業務システムを検討して評価をおこないました。パッケージ化されているものや、ある程度弊社の都合に合わせてくれるものなど、いろいろ試しましたが、結果的に現在のビジネスに一番適合し、効率化できそうなシステムが、インフォアイ社の APASYS でした」とエムケーの取締役 宮原 由紀夫氏は導入のきっかけを語る。
「データベース的な使い方としては、どこのソフトもそこまで差はないのですが、企画立案という点では手書きでデザインをおこなうデザイナーや、パタンナーが実際に触るというところで、 APASYS はアナログライクに使い勝手がよかったんです」と宮原氏は 親和性の高さを評価する。
今回、本部機能として、商品管理・生産管理・仕入管理・販売・在庫管理・店舗管理・経理業務(会計ソフト連携)のほか、店舗での入出庫管理・売上管理・商品在庫管理、さらに倉庫での入出庫・商品在庫管理と導入時の要件を明確にし、店舗では iPhone を使って売上管理ができることも評価された。
インフォアイ社で APASYS の開発を担当する背戸土井(せとどい)氏は、
「子ども服を扱うブランドの特徴として、『一つの商品が複数の価格を持っている』という点があります。つまり、同じデザインでも大きいサイズと小さいサイズとで価格が変わってくることがある、ということですね。 APASYS では、こういったアパレル業界ならではの特殊な事情にも対応しています」
食わず嫌いともいえる、変えることへの現場の抵抗
多くのアパレル企業で採用されている APASYS だが、同社においても最初から順調に現場に受け入れられたかというと、そうではない。これまでは個別の帳票や紙の企画書なども組み合わせておこなっていた業務が全てデジタル化されたため、基幹システムを使った慣れない作業に難色を示すスタッフもいたという。特に現場の売り場では接客がメインとなるため、スタッフの 8 割に変えることへの抵抗感があった。そういった現場の戸惑いを敏感に察知し、オンラインでの説明会を何度も開催し、質疑応答に丁寧に応じることで、徐々に現場の理解を得たという。また、両社の間にはホットラインのように疑問に対してスピーディーに問題解決する仕組みがあった。こうした対応により、導入に際しての心理的障壁を下げることができたことで導入までの 3 か月を乗り切った。
一方で現場で評価が高かったのは、システムによる可視化だ。コロナ禍で全国のスタッフを集合させることが難しいなかで、現場を知り尽くしている店長の情報は貴重な情報源だ。企画段階から約 9 か月先の商品販売時期に向け、どのお客様がどの商品をどれくらい購入するのかの予測を含めて、オンライン会議で検討会を開催し、過剰在庫を抱えないよう調整しているが、デジタル化により紙とは比べられないほどの可視化が実現している。現場においても、納期や在庫を即時検索して iPhone から確認できることになったことは大きい。
APASYS を基幹システムとして運用してから 1 年が経過するが、細かなことでも気軽に質問や要望を上げやすい環境を整えることで、より業務に馴染みやすい Shirley Temple らしいシステムに成長し、紙からデジタルへの移行に成功している。
新システムの導入で 3 時間の作業が 10 分に短縮
導入の効果は、単なるペーパーレスに留まらない。
「売上実績を分析するにしても、今までだとデータベースから引っ張り出してきて、それを並べ替えて、というところで 3 時間は優にかかっていたのが、 APASYS によってボタン一つ、ものの 10 分で処理できるほど時間短縮につながりました」と宮原氏がいうように、データを一元管理できるようになったことで、分析が容易になったという。また、従来は高額な専用ハンディー端末で行っていた入庫管理も、全て基幹システムと連携している iPhone 一つでおこなえるようになり、端末のコスト削減だけでなく、シームレスなデータ処理も現場で好評価だ。
グループ全体を考慮してさらなる効率化を目指す
「現状が第 1 フェーズとしたら、第 2 フェーズでは、基幹システムを顧客情報の管理に役立てたいと考えています。顧客の地域情報などの詳しい情報を見られるようになったり、ロイヤリティプログラムを運用したりといったことが形になれば、商品を買っていただくお客さまにもメリットが生まれると思います。
さらに、親会社 IAAZAJホールディングス株式会社(イチアミエイゼットアートジョイホールディングス)などグループ企業との連携が広がれば、シナジーを生み出し大きなコストメリットを生み出すことにも繋がることが期待されている。
【編集後記】
「誰もがプリンセスになれる」をコンセプトに生み出されるシャーリーテンプルのこだわり抜いた商品企画はアパレル業界の中でも群を抜いている。1 か月に生み出される商品企画は 70 アイテム以上、色・サイズを考慮すれば、1 か月で 5,000SKU がデータベースに登録されているという。定番商品を抱えながらもユーザを飽きさせない商品を生み出して売上を伸ばすには、DX への取組みが欠かせない。
一般的に基幹システムの導入には、仕様書通りにシステム開発する、硬直化したウォーターフォール型のやり方が主流であるが、シャーリーテンプルの世界観を維持するためには、柔軟に変化するアジャイル開発の手法を用いた基幹システム導入が必須だったのかもしれない。
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「アパレル業での業務一元化の事例 〜 企画・生産から展示会・売掛買掛管理まで 〜」
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