DX レポート 2025 年の崖で注目を浴びた “DX を通じてユーザ企業が目指すべき姿”
システム開発を外部に委託せず、「内製化」に取り組む企業が増えている。
その最大の理由は、次世代を担う新事業や事業の拡大を目指すうえで IT 技術という自社にとってコアな資産になりうるノウハウそのものが自社内に残らなくなってしまうことだ。
内製化は、システム開発を外注した場合と比べたコスト面や開発スピードなどのメリットだけでなく、社内の人材育成での視点が挙げられる。近年ますます重要になるガバナンスや情報セキュリティの観点から、業務ノウハウという知的財産の流出を防ぐには、外部に委ねず自社内にノウハウを蓄積させることが望ましい。
同時に、社会情勢の変化と、それに反してレガシーシステムを維持することによる機会損失も注目されている。経済産業省が「DXレポート」にて提示した「2025年の崖」では、レガシーシステムの維持により、2025年以降の 5 年間で最大年間 12 兆円の経済損失が生じると記されている。ユーザ企業は、既存システムの刷新を期に、システムの維持管理に投資していた人材や資金を、クラウド・モバイル・AI 等の技術活用に投資し、 DevOps やアジャイル開発等の手法を取り入れて競争力を高めていくことが求められている。
2018 年以後急速に発展するローコード開発市場
そうした潮流を受けてか、内製化に適したローコード開発ツールを採用する企業が 2018 年以降急速に増えてきている。なかでも Claris FileMaker は開発のしやすさ、外部システムと連携できる拡張性、モバイル・マルチ OS への対応など、最適なローコード開発プラットフォームとしての要件を備えた強力な開発ツールといえる。特に近年は Windows 一辺倒から、macOS を企業内で採用する動きが広がり、日本では iPhone の国内市場シェアが高いこともあって、Windows でも macOS でも開発ができ、iPhone や iPad などのモバイル端末に親和性の高い Claris FileMaker が注目を集めている。Claris プラットフォームを採用した企業の多くが採用理由としてあげているのが、以下の 5 つのポイントだ。
- 要件変更を前提とした対応ができるアジャイル開発ができる
- システムを小さなモジュールに分割することで、短サイクルリリースや機能拡張・再利用がしやすい
- UI の自由度が高く、JavaScript にも対応しており拡張性が高い
- クラウド・オンライン環境はもちろん、電波が届かないオフライン環境でも利用できるため、ハイブリッドな利用が可能
- Web API ベースの疎結合構造により小規模なアプリ開発が進み、大規模システムのコストやリスクを大幅に低減できる
内製化支援サービスはコンサルティングサービス
ローコード開発とはいえ、システム開発の未経験者が突然、業務効率化を実現するアプリを開発するとなると不安は残る。そこで注目したいのが、長年システム開発に携わってきた Claris 認定パートナーによる ユーザ企業のアプリ内製化支援サービスだ。ここでは開発のプロフェッショナルであり、内製化支援を得意とする キーパーソンらに話を伺い、サービス内容やメリット、注意点を明らかにする。
「開発を受託して成果物を納品するスタイルとは異なり、その組織の方々が内製でシステム開発する上での相談に乗ったり、継続的にアドバイスするのが内製化支援サービスの特長です」
そう語るのは、TonicNote 株式会社 代表取締役の竹内 康二 氏だ。あくまでも頭と手を主体的に動かすのは依頼元ユーザの現場担当者で、そこに外部から助言や技術講習などのサポートを行う。
契約上の区分も受託開発 (請負契約に区分される) と異なり、準委任契約となる。準委任契約とは、特定の業務を遂行することを定めた契約のことで、内容や成果物に対して完成の義務を負わない。つまり委託するユーザ側は、システムの完成と納品を業者に求めるのではなく、あくまでアドバイスを受けるという契約になる。内製化支援サービスは自分たちでシステムを開発し、完成まで持っていく気概が自分たちにあるという前提のうえで成り立つ、コンサルティングサービスといえる。
内製化支援サービスの契約内容とは
「契約といっても、規定の単価を提示するものではなく、相談内容や開発規模に応じて提供する支援内容と期間で金額を決めています。時には、ピンポイントでアドバイスがほしいという要望もあり、そういう場合は個別料金を提示することもあります。ニーズに応じて、好きに使えるコンサルティングサービスという感じです(笑)」(竹内氏)
竹内氏は Claris 社が提供するトレーニング講座の認定講師を務めるなど、Claris FileMaker での開発スキル指導に定評があり、航空会社や製造業、教育機関などの支援も手掛けている。
竹内氏が主に担当しているサービスの利用者は、開発期間が年単位に及ぶような、大規模な業務システムの内製開発に取り組んでいる企業が多いという。いわばその企業の中長期的なシステム開発プロジェクトの舵取りを、外部から参謀としてアドバイスしていると言える。
「継続的な支援を希望するお客様が求めるのは、ビッグピクチャーについての助言です」(竹内氏)
つまり、細かな一つ一つの技術的な質問のスケールを超えた、経験に基づく設計領域に関する相談だ。
「以前、ある運輸業のシステム開発を支援させてもらいましたが、定例の会議に参加される社員は数名でした。彼らはもっと大勢いる開発者チームのいわば代表者たちで、決まったことが開発メンバーそれぞれに伝達され、大勢でのアジャイル開発が進められていました」(竹内氏)
結果としてその会社は、開発会社のエンジニアに専門用語を説明したり機密情報を共有することなく、秘匿性の高い業務ノウハウを社外に出さずに大規模なシステムの構築を実現した。まさに内製化支援サービスを活用した成功例といえる。
内製化支援では専門的な視点で評価を行い、足りない部分を補う提案が得られる
ここでもう 1 人、内製化支援のプロを事例とともに紹介したい。株式会社ワークスペース 代表取締役 岡田 匡氏だ。株式会社ワークスペースは岐阜県を拠点としているが、千葉県の不妊治療専門クリニック「亀田 IVF クリニック幕張」のシステムの内製化を完全リモートで支援した。
「FileMaker カンファレンス (現 Claris Engage Japan) で、私のセッション講演を亀田 IVF クリニック幕張の方が聞いてくださったことがきっかけでお取引がスタートしました」(岡田氏)
セッションでは、Web サービスから Claris FileMaker Server のデータベースにアクセス可能にする Claris FileMaker Data API を紹介したという岡田氏。その内容が、クリニックの担当者が求めていたシステムの構想にピッタリだった。クリニックではもともと Claris FileMaker を導入していたが、FileMaker Data API を使えば、既存の院内システムとさまざまな外部システム・サービスを連携できる点が担当者の興味を惹いたのだ。受託開発ではなく内製化支援であるため、開発やインフラの整備などは、すべて亀田 IVF クリニック幕張側が行う前提でプロジェクトは進行。ワークスペースの支援を受けた亀田 IVF クリニック幕張の筋野 徒志雄 氏は、FileMaker の実務経験はあったものの、Web で動くシステムを構築するのは初めて。それでもスタートから 3、4 か月で運用開始にこぎつけた。
「『PHP 言語って何?』という状態だった私でも、たった 3 か月で実現したかったことができるようになりました」と筋野氏は喜びを語る。
「岡田さんは、システムを依頼したユーザ企業側のレベルに合わせてわかるようにトレーニングした上で、どのような開発手法を採ればよいか、それがなぜ望ましいのかを話してくださるんですね。こちらがシステムの話を理解できるだけの知識と技能が備わった状態になって話し合いが進むので、アルゴリズムなど詳細な部分についてもどうすればベストなのか、納得した上で開発を進めることができました」(筋野氏)
たしかに世間ではブラックボックスのように内部がどういう仕組みになっているかはわからない状態になったシステムを開発会社から納品されるケースも多い。ユーザ側はシステムの中身がどうなっているかを把握できず、自分たちで手を入れることはできないまま。何かあるたびにその都度、追加でお金を払って作業をしてもらう、システム開発会社頼みの業務モデルから脱却できていない組織が大半なのではないだろうか?
「内製化を支援してくれる会社というのは、受託開発会社と比べると数が少ない印象があります。だからこそ貴重ですし、自社に合う内製化支援会社と出会えるかどうかもわからない。その点、岡田さんにお願いできて幸運でした。技術的なサポートはもとより、弊社のこれまでの業務フローを損なう仕様のシステムにならないよう、丁寧にヒアリングをして伴走してくれたんです。おかげで『新しくシステムを作ったはいいが、誰も使わない』という、世間でよくある失敗に陥ることなく現場にスムーズに浸透する結果が得られました」(筋野氏)
今では比較的高度な機能の追加も自力でこなせるほど開発技術に習熟したという筋野氏。ちょっとした機能なら 1 日で開発リリースして現場のスタッフから「もうできたんですか?」と驚かれることもあるという。しかし、ここで終了ではない。ワークスぺ-スの内製化支援サービスの特長は、内製化の先まで見据えたサポートを心がけていることだ。
「内製化が実現すれば完了ではなく、専門的な視点で評価を行い、足りない部分を補う提案を行うことも必要です。システムがただ動くという表面的なことだけではなく、セキュリティ対応など安心して利用できる仕組みを構築する。そうしたシステム稼働領域まで含めたサポートを行うことが、内製化支援の肝だと考えています」(岡田氏)
専門家と二人三脚でシステムを成長させていくことができる、内製化支援はユーザに寄り添う頼もしいサービスと言えるだろう。
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Claris Engage Japan 2022
竹内氏、岡田氏がスピーカーとして登壇する Claris の年次カンファレンス「Claris Engage Japan 2022」 が 2022 年 10 月 26 日(水)から 3 日間、オンラインで開催される。
竹内氏はテクニカルセッション
「効率的なカスタム App 開発の基本手法を考察する - 最新版 -」に登壇。
岡田氏は、ユーザである亀田 IVF クリニック幕張 筋野氏とともに、事例セッション
「Claris FileMaker 内製化開発によるSmart Clinic化の実際 ~FileMaker Data APIを活用したWeb問診票開発を中心に~」に登壇。
また、テクニカルセッション
「一歩踏み出す開発テクニック / 今日から使える BIツールを活用した Claris FileMaker のデータ分析」で Claris FileMaker とBIツール連携の技術情報を紹介する。
開発のプロであり、内製化支援のプロである二人のセッションに注目したい。
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