ローコード

FileMaker は時代遅れ?

FileMaker の歴史は 38 年

「かなり昔、1990 年代のどこかで、FileMaker(ファイルメーカー)という製品名を聞いた記憶があったが、最近になって再び IT 業界でよく耳にするようになった」という人は、実は多いのではないでしょうか。インターネットで FileMaker について検索してみると、“FileMaker 時代遅れ” というサジェストが出てきます。しかし果たして、検索エンジンのサジェストの通り、FileMaker は時代遅れなのでしょうか。

まずは、FileMaker の歴史について紐解いてみたいと思います。

FileMaker の歴史は 1985 年に米国で Forethought Inc. という会社から FileMaker v.1.0 がリリースされたことに始まります。その後、現在の米国 Claris International Inc. から 1988 年に FileMaker II がリリースされました。発売当時は Mac 専用のアプリケーションとして提供されていましたが、1992 年には Windows OS にも対応し、同年 日本法人が設立されました。

当時から日本語でローコードでアプリ開発ができた FileMaker : バージョン 5 からは Web ブラウザへの展開も容易にできた

1995 年、Windows 95 の登場によって Windows OS のユーザ数が増え TCP/IP によるネットワーク接続が一般的になります。同年 FileMaker Pro 3 がリリースされ、FileMaker は複数人での利用が可能になりました。当初、FileMaker はカード型データベースという概念で動いており、1 つのファイルに 1 つのテーブルというシンプルな構造でした。当時の一般的なコンピュータのメモリは 8MB や 16MB。Windows や Mac で快適な検索を実現するためには、ソフトウェアも単純な構造である必要がありました。

1999 年発売の FileMaker Pro 5 では、新しいファイル拡張子「.fp5」が導入され、Web 公開機能が追加されました。1999 年 12 月に発売された Microsoft Windows 2000 は安定的な OS として業務用に導入が進み、それに合わせて Claris は 2001 年に FileMaker Pro 5.5 をリリース。その後 FileMaker Server 5.5 もリリースし、Windows NT、Windows 2000、Mac OS X、Red Hat Linux など複数の OS に対応しはじめます。

そして 2004 年、FileMaker はついに「カード型データベース」ソフトの歴史に終止符を打ちます。技術の進歩とハードウェア性能の向上に合わせて、現在のような 1 ファイルで複数テーブル構造を持つリレーショナルデータベースを構築できるようになりました。また、複雑な計算式やリレーションに対応していったことにより、複数人で利用するシステムとして大手企業でも導入されはじめました。当時、「ローコード開発」という言葉は世の中にまだ存在していません。そんななか、マウスとキーボードでリレーショナルデータベースを直感的に構築でき、macOS と Windows OS を跨いで利用できる FileMaker は、日本国内でも大手企業のみならず、医療機関、公共施設、官公庁など多くの組織で利用されるようになりました。

iPad 発売と同時にモバイルニーズに対応

2010 年 4 月、初めて iPad が発売されると、Apple Inc. の 100% 子会社であった FileMaker, Inc. は市場のニーズにいち早く対応し、2010 年 7 月に iOS 専用の FileMaker Go 11 をリリース。FileMaker で開発したカスタム App をそのまま iOS デバイスで利用することができるようになりました。外出先でも通信が暗号化された状態で安全に FileMaker Server に接続できるほか、オフラインでの利用を想定してインターネット接続がない状態でもカスタム App を利用できました。当時は有償で iPhone 版 2,300 円、iPad 版 4,600 円という価格でしたが、iOS で動くアプリを短時間で開発できるということは、リリース当初から大きな話題を呼びました。その後も機能強化を続け、バーコードをカメラで読み取ってログインできる、オーダー処理ができる、バーコードから API 経由で書籍名を取得できるなど、最先端のデバイスと最先端のテクノロジーを連携させた利用方法が可能になっていきました。

FileMaker Go 11 では作成したアプリを iTunes 経由ですぐに iPad に複製しテストする開発者も多かった

日本からのリクエストで有償アプリの無償提供を決断

当時、FileMaker, Inc. 米国本社の副社長であり日本法人の社長を務めていたビル・エプリング氏は、四半期ごとに日本を訪れ、さまざまなユーザと直接会話する機会を設けていました。2011 年 11 月、彼は参加した日本クリニカルパス学会学術集会に、FileMaker で作成したモバイル対応の抄録アプリを提供します。その際、医療関係者の多くから「有償版のアプリは、医療機関では経費処理が難しい。iTunes カードだとぴったり払えない。いっそのこと無料で提供してくれないか?」という直談判を受けました。彼は早速その案件を本社に持ち帰って方針転換し、2012 年 4 月に FileMaker Go の無償化に踏み切りました。

「FileMaker は時代遅れ」という概念は、一般では 2011 年時点ですでにありました。しかし当時、目的の情報を探すために数百ページにも及ぶ辞書のような学会抄録のページをめくっていた医療関係者の目には、時間・場所・講演者・キーワードなどで検索すると瞬時に当該ページに到達できる FileMaker 製の抄録を iPhone や iPad で利用できることは、時代の最先端に映ったことでしょう。

2011 年当時 医師自らが開発した問診票や透析管理システムは多くの学会で高い評価を受けた

今では医療分野にとどまらないさまざまな業種や分野で、インターネット接続を必要としない専門電子マニュアルとして FileMaker が利用されています。

例を挙げていくと、日本航空ではパイロットが使うフライトブックが、パイロットたちが自ら開発したカスタム App によって構築・運用されています。また 2023 年現在、日本国内の某大手自動車メーカーでは、手順書に動画を組み込んで電子マニュアルとして最新の FileMaker Go を利用しています。原子力・造船などの分野でも、従来の紙のマニュアルでは説明が難しい「通常発生しない異常音」などを新人に学習させることができると、FileMaker Go と iPad が電子マニュアルとして利用されています。

「FileMaker は時代遅れ」どころか、iPad と連携することで、製造業などの現場ではまさに最先端を行くツールとして活用されているのです。

FileMaker は常に最新の iOS に対応

Claris FileMaker は、時代遅れどころか、常に最新の iOS に対応しています。iOS は現代のスマートデバイスの主要なプラットフォームの 1 つ。FileMaker が iOS に対応していることは、アプリケーション開発において重要なポイントと言えるでしょう。 現時点で FileMaker 2023 は、macOS、Windows OS、iOS/iPadOS、Linux に対応し、小規模なアプリから大規模なプロジェクトまで多用なニーズに対応しています。頻繁に行われる OS のアップデートをサポートし続け、最新の iOS に対応したカスタム App を提供することは、強固なセキュリティを提供するのみならず、新機能をいち早く実装させ、業務効率化に寄与します。これは業務アプリケーションを使う企業ユーザにとって、Claris プラットフォームを採用することはとても心強いパートナーを手に入れるのだということを意味するのです。

前述の通り、Claris FileMaker は、Apple の子会社である Claris International Inc. が提供している製品であることから、Apple のエコシステムとの連携も強化されています。FileMaker は macOS や iOS との連携がスムーズに行えるため、Apple 製品を利用している企業や個人にとってマルチ OS 環境での利用を考える場合の最も有力な選択肢の 1 つとなっています。

FileMaker の歴史

クラウドでもオンプレミスでも、オフラインでもハイブリッドでも

多くの企業でクラウドサービスの導入が進む中、Claris でも顧客のニーズに合わせて 2017 年から FileMaker Cloud のサービスを提供しています。その一方、Claris が特にユーザの声に耳を傾け、継続してサポートしているのが、オンプレミス環境やオフライン (スタンドアロン) で利用できる製品の提供です。

例えば、オーストラリアの NPO 団体 YWAM (Youth with a Mission)。彼らはパプアニューギニアの人々を支援するため、医療船を派遣しています。人口の 8 割以上が河川と山々に囲まれた農村地域に居住しているパプアニューギニアでは、 スタッフは医療船から離れて診療することになります。そこで、医療情報、検眼、眼科、検査データ、在庫などのデータが格納された iPad と医療器材を持って診療にあたり、Wi-Fi 環境のある船に戻ってデータを同期するという手段をとっています。

また原子力をはじめとした電力施設でも、FileMaker Go を搭載した iPad が活躍しています。それらの施設には数万点に及ぶ機器があり、その設備点検を紙で運用するのには限界があります。また、施設の特殊性ゆえに外部からのネットワーク接続を遮断する必要があります。設備点検時、さまざまな機器の写真を iPadの写真アプリや外部ネットワークを経由せず直接暗号化されたローカルデータベースに保存でき、秘匿性を維持したままローカルネットワークで完結できる FileMaker は、そのような環境下で高く評価されています。この機能は電力インフラのみならず、さまざまな省庁でも高い評価を受けています。

さらに、コンテナ船やタンカー船から豪華客船「飛鳥Ⅱ」などのクルーズ船まで、さまざまな船舶 700 隻以上を運航する日本郵船でも、FileMaker が活躍しています。世界中の海を駆ける船舶の心臓部、40 〜 50 ℃ の高温になるエンジンルームや機関室という特殊な環境下で、安全な運航を守るために欠かせないあらゆる機器の確認は、FileMaker と iPad で行われています。単にその場での点検だけに使うのではなく、データを蓄積して業務の改善に役立てる取り組みは、今後さらに FileMaker の利用価値を高めていくものになるでしょう。

JavaScript や API 連携、CoreML などの最新の技術にも対応

FileMaker は JavaScript や API 連携、CoreML などにも対応しています。これにより、FileMaker を利用して開発されたアプリケーションは、Web や外部システムとの連携を容易に行うことができます。JavaScript を組み込んだり API を活用したりすることで、カレンダーの実装ヒートマップカンバンバーコード作成など、より高度な機能や外部サービスとの連携を実現することができます。また、CoreML への対応により、機械学習を活用したアプリケーションの開発も可能になります。

FileMaker は、人間工学を研究し 30 年以上バージョンアップを繰り返してきたローコード開発プラットフォームとしての優位性も持っています。FileMaker は直感的な GUI (グラフィカルユーザーインターフェース)を備えており、特別な知識を持たなくても容易にカスタムアプリケーションを開発できます。例えば、教育機関などでそれぞれの研究に特化したアプリケーションが必要になったとき、プログラミングを専門に学ばなくてもその特殊なアプリケーションを作成できるのです。実際、北海道千歳市の公立千歳科学技術大学では、支笏湖の鏡面現象に関する研究のための機械学習モデルを「Create ML」で作成してアプリ連携させたり、千歳市埋蔵文化財センターの収蔵品を AR 化して新しいサービスを創造するなど、学生たちが FileMaker を活用しながら多彩な研究を行っています。

公立千歳科学技術大学の学生が取り組む 支笏湖鏡面現象の Apple CreateML (機械学習)を使った予測アプリ

最新のセキュリティに対応

「FileMaker が時代遅れ」かどうかの判断で最も気になるのは、セキュリティの面でしょう。FileMaker は、Claris のみならず親会社 Apple Inc. の厳しいセキュリティ審査をクリアをして製品をリリースしており、セキュリティ面にも十分な配慮がなされています。データの暗号化やアクセス制御など、企業の重要なデータを保護するための機能が備わっており、セキュリティに対する要求の高いビジネス環境においても信頼性のある選択肢となっています。FileMaker は欧米の多くの企業、特に、米国 Fortune500 の 多くの企業が利用しているという点からも、多くの企業がその製品・セキュリティ基準の高さを認めていることの裏付けになっています。

なお、Claris のホームページでは、SOC2 Type2 と ISO 認証についても掲載しています。

ISO/IEC 27001 および 27018 認証 には Claris Connect, FileMaker Cloud を含めて Apple Inc. として取得

常に進化し続けるプラットフォーム

2023 年現在、38 年の歴史がある FileMaker ですが、その歴史の上にあぐらをかくことなく常に進化を続けており、最新のテクノロジーに対応するためのアップデートや新機能の追加を定期的に行っています。その結果、FileMaker は常に最新のトレンドや技術を取り入れ、時代遅れになることなく、ユーザの声を聞き、ユーザのニーズに応え続けています。

以上のことから総合的に見ると、FileMaker は時代遅れのソフトウェアではなく、安定した経営基盤のもと年々進化を遂げているソフトウェアだと言えます。現代のアプリケーション開発において有力な選択肢であることがおわかりいただけるでしょう。Claris FileMaker は、これからも時代の変化に合わせて進化し、多様なビジネスニーズに応えるモダンなアプリケーション開発プラットフォームであり続けます。

過半数の企業がアプリケーションの内製化を推進*

Gartner が 2023 年 1 月に発表したデータによると、調査対象の企業のうち過半数が社内で業務アプリケーション、システムを開発する内製化を推進しているそうです。内製化により開発コストの低減や開発スピードの向上、自社ビジネスやデジタル化のノウハウ蓄積、または業務にマッチしたアプリの開発など DX 実現に不可欠な多くの効果が得られることが広く知られてきたのです。

しかし、ローコード開発が可能な FileMaker は 30 年以上前からまさに同じ目的で内製開発のためのツールとして利用されてきました。現在の世の中のトレンドを、FileMaker ユーザたちは 30 年以上前から実践されていたのですね。いかがでしょうか? FileMaker は「時代遅れ」などではなく、時代が FileMaker に追いついてきたと思いませんか?

*出典:ガートナージャパン株式会社 2023 年 1 月 18 日プレスリリース「Gartner、日本におけるソフトウェア開発の内製化に関する調査結果を発表」